はっけよ~い、残った
お相撲さんが押し合って、私は最寄りの駅に着く。
小さいころ、ソファの上に仰向けになっていたら、テレビで相撲の中継をやっていた。
小柄な力士が大柄の力士を押し出していく。
お父さんが「また押し出しかあ」と呟いた。
私はこれがモノレールだと思った。
モノレールには跨座(こざ)式と懸垂式がある。
レールの上を綱渡りみたいに走っているのが跨座式で、レールにぶら下がっているのが懸垂式だ。
日本ではほとんど見られない懸垂式だが、私の中ではモノレールといえば懸垂式だった。上野動物園で足が疲れて泣き出してしまった時、出口まで連れて行ってくれたのも懸垂式だった。幼稚園で懸垂式のモノレールを描いたら跨座式しか知らない男子にバカにされたが、私の中でモノレールといえば懸垂式なのだ。
逆さになって相撲を見ていた私にとって、お相撲さんの太い足は大きい車両(肉体)を落とさないように支えていたように見えた。
お相撲さん同士が押し合って動く。
お相撲さんはモノレールなのだ。
天地が逆になった日、体重が100キロ以上の人が地面を歩き、100キロ未満の人は天を下にしてぷかぷか浮くようになった。浮くといってもやはり床的なものがないと思うように歩けない。屋内は今まで天井だったものを床にすればいいが、屋外はそうもいかなかった。
そんな状況の中で考案されたのがお相撲さんモノレールだ。
地面を歩くお相撲さんが押し出しをして、私たちはそこに捕まって移動する。弱いお相撲さんと強いお相撲さんで取り組みをしているときは、最初から勝負が決まっているようなものなので、確実に向かいたい方向に行ける。でも、たまに番狂わせが起こると遅刻が確定だ。みんな顔が真っ青になる。
はっけよ~い、残った
お相撲さんモノレールに揺られて、私は今日も生きていく
お相撲さんモノレール、今日もありがとう