・ 天狗は嘘のことしか言わないし、人間は本当のことしか言わない
A 「天狗がこの中に一人だけいるよ」
B 「Cは天狗じゃないよ」
C 「BとEの少なくともどちらか一方は天狗じゃないよ」
D 「少なくともA以外の誰かは天狗だよ」
E 「Dが言っていることは本当だよ」
銃声が一発、二発、三発、四発、五発、六発・・・
マタギの弥七は全員を順番に撃ってみた。
避けることができたのはただ一人。
弥七の睨んだ通り、それは「F」であった。
彼こそが最近街を荒らしまわっている天狗だったのだ。
そう、一見破綻してるかのように見えた論理。そこに一人、
沈黙を守った天狗を加えることによってそれは完全になる。
そして何より弥七に「F」が天狗だという確信を持たせたのは、
「F」のすこぶる長い鼻とこれでもかと言うくらい赤い肌、更に
その大事そうに持っているでっかい葉っぱだった。
「ちいとおふざけが過ぎたな。今日はもう山に帰んなせえ」
弥七が再び銃を構えると、「F」、いや天狗は舌打ちをひとつして
翼を広げ、やがては夜のしじまに吸いこまれていった。
後に残されたのは年を重ねた一人のマタギと、空に消えていった
天狗の方を恨めしそうに眺める五体の男の亡骸だけであった。