いつ見ても蜃気楼のようにゆらゆらしてるので
カゲロウ神社と呼ばれてる。
近付いても近付いても入ることができなくて、その存在はこの宇宙とは
別の次元にあると言われてる。
時々、神主らしき人物が入り口を掃除してるのが見えて、手を振るの
だけれど、なにも興味ないといった感じで奥へと引っ込んでいく。
神社の見える近所では毎年正月になると若い娘が行方不明になる
事件が多発しており、気味悪がった住民は次々に村外へ
引っ越していった。
いずれも近所で評判の美しい娘で、その恋人や父親のなかには
悲観して自殺する者も現れた。
そして、僕の恋人のリボンちゃんが行方不明になった昨年の正月、
僕は神社へ向かってただひたすらに歩き続けた。
時間が過ぎなくなったかのように神社への並木道は続き、陽はいつまでも
傾いたまま僕の前に長い影を落としていた。
歩き疲れてふと立ち止まると、神社の入り口で巫女らしき人物が
掃除しているのが見えた。
ゆらゆらしているけど、そのポニーテールの面影は間違いなく
リボンちゃんのそれだった。
「リボンちゃん!」
僕は叫んだ。
リボンちゃんはその声に気付いたのか、あたりを見回すのだけど、
まるでマジックミラーでこちらが見えないようで、ひとつため息を
つくとまた掃除を始めた。
僕はまた歩き始めた。リボンちゃんへ向かって。
いつまでもつかない。いつまでもゆらゆらしている。
だけど、まばたきをした一瞬、神社の姿がはっきりと見えた。
僕は目を閉じた。やはり神社が、そしてリボンちゃんがはっきりと見えた。
「リボンちゃん!」
僕は駆け出した。
今度は神社へどんどん近付いていく。やがてリボンちゃんに声が
届くような距離になり、僕は目を閉じたまま、再び叫んだ。
「リボンちゃん!」
リボンちゃんは驚いた顔をしてこちらを見たが、すぐにこう叫んだ。
「来ちゃダメ!目を開けて!」
僕は通じ合えた嬉しさと、同時に彼女の急な言動に動揺して立ち止まり、
言われたとおりに目を開けた。
そこには神社などなく、僕は崖っぷちにたたずんでいた。
リボンちゃんはどこへ行ってしまったのだろうか。