店に入っていった時、俺の顔を見て、
何も言わずに店の奥に逃げていきやがった。
嫌がらせで次の日も行ったら、
店の奥からジロジロと値踏みするような視線で見ていやがる。
注文しようと呼び止めたら、アタフタやがって、
結局、別の店員を呼んで対処しやがった。クソがッ!
完全にむかついたので次の日も顔を出した。
そしたら、「いらっしゃいませ」と蚊の鳴くような声だ。
全く、接客態度がなってない。名前は、『小宮山』か……。
こうなったら、小宮山への嫌がらせで毎日でも通ってやる。
一週間が過ぎても、小宮山の態度は変わらない。
寛大な俺でも堪忍袋の緒が切れるってもんだ。
小宮山のヤツが近くを通ったのを見計らって、俺は足を引っ掛けようとした。
そしたら、アイツ、「あっ!」とか言いやがって、勝手に転びやがった。
中から出てくる店長らしき女がやって来て、ガミガミと注意する。
さすがにウルサイので、俺が足を引っ掛けたことにした。
……ったく、なんで俺が小宮山をかばわなきゃいけないんだ?
今日はトイレに行くフリをして小宮山に肩をぶつけた。
そしたら、「申し訳ございません、お客様」だと?
反省するなら、もう少し申し訳なさそうにしろ。喜んでんじゃねーよ。
今日も小宮山の様子を注意深くさぐりつつ、嫌がらせを実行だ。
無いメニューを頼んだ。アイツ、それを知らずに厨房に行きやがった。
ふっふっふっ、大恥をかくといい。
そしたら、「お待たせしました」と別のメニューを持ってきやがった。
なんで、『ミルクパフェ』が『ミッドナイトハワイアンブリリアントぜんざい』になるんだよ!
『ミ』以外共通点無いじゃねぇか! てめぇ、最初の一文字以外覚えられねぇのかよ!
今日は弊店間際に顔を出した。
深夜なのに、小宮山のヤツはまだ働いているようだ。
「あ、いらっしゃいませ。良かった、今日は来ないのかと思いました」
なに、嬉しそうな顔してんだよ?
いつも通り飯を食って帰ろうとしたら、小宮山に呼び止められた。
「毎日いらっしゃってますよね? あ、あの……どうしてですか?」
そりゃ、お前に嫌がらせするためだよ。なにじゃれてんだ、お前?
「誰かさんのアホヅラ拝むためだ」
「アホヅラ……ですか。えへへ」
だから、何笑ってんだよ?
「私も、誰かさんの凛々しいお顔が拝見したくて、毎日バイトしてるんです」
へぇーへぇーそーですか。
「だから、明日も絶対、来て下さいね」
てめぇバカにされてんのにそういうこと言うか? ふざけやがって。
今日も喫茶店のドアベルが軽やかに店内に鳴り響いた。