恐怖の大王が降りた場所は、冷たい大地だった。
雪が降っているわけでもなく、風が強いわけでもない。
しかし、目に見える景色は賑やかな街なのに、冷たい印象を受けた。
それは行き交う人々が、誰もが他人に無関心だったのだ。
きらびやかなインテリアが光る街並み、
恐怖の大王は一人泣いている少女に出会う。
少女はただ地面にうずくまり、すすり泣くように泣いていた。
少女は恐怖の大王の姿を見つめると、何かを訴えかける。
人間の言葉が分からない彼は、
何を言いたいのか分からず、少女から離れた。
すると少女は瞳にいっぱいの涙を浮かべ、それでも声をあげずに涙を流し始めた。
よく見れば少女の手足には殴打の跡があった。
彼は気付いた。
少女は虐待に遭ったのだと。
だが彼は恐怖の大王、地球を滅ぼすためにやってきた男。
こんな少女1人を相手にしていられない。
しかし、不思議と足が動かなかった。
それは少女の悲しげな瞳が脳に焼き付いてしまったからだ。
少女は再び恐怖の大王に言う。
今度はハッキリと心に聞こえた。
「たすけて」と。
恐怖の大王は黙って少女に手を差し伸べた。
少女は目を丸くしてその手を見つめる。
そして少女の小さなその手は恐怖の大王の指を掴んだ。
恐怖の大王は少女を掴んだ。
少女はニッコリとした笑顔を見せた。
それは少女にとって生まれて初めて見せる明るい表情で、
色の無い寂しい街の中に一輪だけ咲いた暖かな向日葵のようだった。
1999年、7の月……
新聞の片隅には1人の少女が誘拐された記事が載った。
しかし、そのことを気に留めるものは誰もいない。