俺は親のことをよく知らない。俺の家庭は父がサラリーマンで母がパートタイムで働く主婦で子供は俺と弟の二人。家族仲も悪くなく、比較的普通の家庭だ。でも俺は両親の馴れ初めとかそういったことは知らない。意外とそういうものなのかもしれない。
目の前にいるこいつは友人のタカシ。親が古本屋を経営している。古本屋といっても最新の本も扱っているようで、新刊とかを真っ先に貸してくれる。ただ、こいつはある意味男子高校生らしく、エロい本とかも率先して貸してくる。俺はスカしているのでそういうのに興味がないふりをしている。ただタカシはそんな俺でも飛びつくようなエロ本を見つけたいのか、普通の写真集から始まり、エロ漫画や春画集、果てにはポケモン図鑑まで持ってきた。
ある日、タカシが80年代くらいの古雑誌を持ってきた。これはすごいぞ、これがなければ自分は存在しなかった、と言ってきた。タカシが言うにはタカシの母親の本屋が万引きに悩まされていた。ある時、不審な男が本屋をうろついていた。タカシの母親が声を掛けるとあろうことか男は殴りかかってきてそのまま逃走しようとした。その時たまたま通りかかり、その不審者を捕まえたのがタカシの父親だったらしい。
「それでその不審者が盗もうとしてたのがこの本ってわけ」「なんだよ、お前の父ちゃん、婿入りだったのかよ」「いや戸籍上は違うよ」、内心俺は羨ましかった、こいつの両親にこんな暖かい馴れ初めがあったとは。「さあ、この本を開け、今回のはお前でも興奮するはずだぞ」「いや無理だろ、こんな古い本、ていうかそんな裏話されたら尚更だわ」「いや、俺はこれで抜けた」「お前さ、自分の両親の馴れ初めで抜くなよ」そう笑いながら古雑誌を開いた。
タカシが「これこれ」と言って指をさした先にあったのは官能的なポーズを取った、俺の母親だった。ふくよかな乳房の横に印字された名前こそ芸名だろうが、顔立ち、ページの端に書かれた生年月日、明らかに母親だった。あと横に撮影者の名前が入ってたけどそれも父親の名前だった。ごりっごりの、本名だった。俺の両親の馴れ初めはこれかぁ、と思った。俺がふと正面を向くとタカシがゲスっぽく、それでいてとても無垢な表情で笑っていた。俺は自分のパンツが湿っていくのを感じ、静かに目を閉じた。
その時のパンツで作った、テディベア