三塁コーチャーがめいっぱい腕を回した勢いで竜巻が起きた。竜巻はみるみるうちに加速、あっという間にグラウンドを駆け抜け、本州を飛び出し、紛争地帯に到達、あまりに暴力的に跋扈する竜巻を前にした二国は、「このままでは普通に全員死ぬ」と判断し、同盟を結んだ。紛争を止めた立役者として三塁コーチャーは名を轟かせ、メディア露出を増やし、「三塁とは」みたいな講演会を開くにまで至ったが、とある国際会議でこんな意見が出る。彼は一端の三塁コーチャーにあらず、兵器になりうる存在だというのだ。たしかに言い分は分かる、と安倍。しかし、かと言って彼を排除するのはあんまりだ、と。すると、プーチンが口を開く。何も、排除するなどとは言っていない。彼が野生の兵器として脅威たりうるなら、日本国公認の兵器として作り替えれば良いのだ、と。この発言を皮切りに議論はヒートアップする。「ただの三塁コーチャーが兵器とは馬鹿げている」「彼は暴力的な三塁コーチャーだ」「普通の三塁コーチャーは竜巻を起こさない」「竜巻コーチャーだ」「竜巻コーチャー?」結果として安倍は、「自衛する兵器なしに、まだ我々のみに頼るというのか」というトランプの言葉に何も言い返すことができなかった。程なくして、大がかりな手術が始まった。丸三日の手術を終え、彼は自我を喪失した立派な兵器となった。安倍は適当な理由をでっち上げ、国家機密の兵器として彼を完成させた。それから時は過ぎ、彼が兵器になってから一年が経った。「次はイスラエルに派遣をお願いしたいんだが」と伏し目がちに安倍は言う。了解しました、と小さく呟く彼の目に、かつて三塁コーチャーだった頃の輝きを見ることはもう叶わない。