私の村では古くより男性器を神と崇めており、
子宝や安産などを祈願する観光客で賑わっている。
私は高校卒業と同時に職人への道を目指し、
以来40年ずっと木から男性器を作り出す毎日を過ごしている。
ご神体、性器神など様々な呼び名があるが私たち職人の間では、
珍しい宝、すなわち珍宝、ちんぽう様と呼ばれている。
「いかんな、爪が伸びてきたな。」
ちんぽう様を作り出す過程はとても繊細で小さな爪跡ですら残してはいけない。
私は爪切りを探すために引き出しを開けては閉め、開けては閉めを繰り返す。
まったく情けないものだ。
家のことは全て妻にまかせっきりで爪切りの場所一つ分からない。
いくら素晴らしいちんぽう様が彫れてもこれでは駄目だなと反省している矢先のことだった。
「な、なんだこれは?」
私は妻の机の引き出しから小型のちんぽう様を見つけた。
「なんて精巧な作りだ・・・」
見れば見るほど素晴らしい形だ。
頭の下に並べられた半球体、それは少しも乱れることなくキレイに並べられている。
まるで大仏様の髪のようなこしらえ、信じられん、こんな技術を持った職人が私以外にいたなんて。
「それだけじゃない」
そう、この角度だ。
私は40年間、直線的なちんぽう様ばかりを彫ってきた。
だがこの小型のちんぽう様はどうだ、少し反ることによって躍動感が生まれているではないか。
何をやってたんだ私は。40年も費やしながら何も生み出してはいない。
ただ先人達の技術を盗んで来たにすぎないのだ。
「くそっ、どうやって・・・どうやってこの色を・・・」
何と鮮やかな桜色だろう。見ている者の心を落ち着かせる。
私にちんぽう様を色づかせるなんて発想があっただろうか。
いや、あったとしてもここまでの色を出せる技術は私にはない、完敗だ。
「ん?何だこのでっぱりは?」
カチッ。
ウィィィン。ウィィィィン。ヴィィィィィィィン。
うわぁああ!ちんぽう様が、ちんぽう様が・・・喜んでいらっしゃる!
一体どういったからくりだ。さっぱりわからん。
がしかし、まぎれもなくちんぽう様が動いている。何て楽しそうなお姿だ。
知りたい。これを作った者を。
私は妻のところへ走って行き、問い詰める。
「これはどういうことだ!?」
妻は無言で顔をふせる。無理もない。
彼女は隠していたのだ。私よりも優れたちんぽう様彫り師がいることを。
だがそれは彼女なりの優しさだったのであろう。私は息を整えて続ける。
「怒っているのではない、知りたいのだ。まずこれをどこで手に入れたのかを教えてくれ」
妻は少し恥ずかしそうに「通販で」と言った。
「つ、通販だと!?」
なんてことだ、つまりこれを彫った職人は、
この精巧なちんぽう様を量産できる技術まで持ち合わせているということだ。
私の40年が音を立てて崩れていくのがわかった。
感動と悔しさの入り混じった複雑な感情で震える私のすぐそばで、
ちんぽう様も楽しそうに音を立てながら震えていた。