「母さん?」
その日、帰宅すると母さん(推定年齢54才)は台所に立ち尽くしていた。
スリッパは健康スリッパだ。
「ねぇ母さんどうかしたの? ねぇ!?」
いくら呼んでも返事はない。表情はまるで空鍋を引っ掻き回す時の
彼女の様だ。スリッパは健康スリッパだ。エプロンは紙エプロンだ。
「母さん!しっかりして、具合悪いの!?救急車よぼう」
か、を発言する前にボクは左頬に強烈な衝撃を受けた。
見えない何かからの衝撃。(これは・・フックッ!!?)
瞬間的にそう感じ、一歩下がり身構える。
「とうとうこの時が・・母さんにもやってきた訳って事か」
「そうね・・タケSHI」母さんはユラリと軟体動物のように揺れながら
振り向いた。顔はまさにゴリラだ。スリッパは健康スリッパだ。エプロンは
紙エプロンだ。
「ごめんね、ボク手加減する気はないよ」右こぶし・左こぶし共に力をこめる。
「母さんを超えて生きなさい、たけSHI」母さんはまたユラリと両手を胸の前に構え、戦闘態勢に入った。瞬間。
二人の間には 見えない攻防。打撃打撃打撃稀に狙撃打撃。
5分後には勝負は見えた。
「フボォオエエ・・ガガッ・・」ボクの視界は血に染まる。
「まだまだ・・修行が足りないようよ。たかSHI」
母さんは両の手を血に染めながら、血でもう形のない紙エプロンで拭いた。
スリッパは健康スリッパだ。
「あらやだ、4時じゃない!録画してた織田祐二みなくっちゃ」
血に染まった紙エプロンを脱ぎ捨て、居間へと戻っていく母さん。
「・・ガガッ(肋骨はやられたな。肺はまだいける・・明日の宿題やらなくちゃ、動けるまであと・・15分って所か)」
ボクは静かに台所で治癒を待つことにした。
「あ、たかしちゃ〜ん、戸棚にミスド入ってるから〜食べてね〜」
その13分後 お茶を入れにきた母さんに踏まれ、
さらに肋骨2本イカレるとは思わずに。
ちなみにスリッパは健康スリッパだ。