――キーンコーンカーンコーン
一つ、また一つため息をつくと、校内にチャイムが鳴り響いた。
青みがかった教室の窓に、僕は悲しさを映し出していた。
二時間目の半ば頃から降り出した突然の通り雨。
「梅雨前線が―」お天気お姉さんの言葉は、小学生の僕には難しかった。
ガラスに映った表情に重なる雨粒が、僕には涙のように思えていた。
そのせいか大好きな国語の授業も、今日はどこか面白くなかった。
休み時間に入り、親友のフランケンもはしゃいで走り回る。
彼はいっぱいに教科書を詰め込んだ鞄から体育着を取り出していた。
「早く行ってドッヂボールしようぜ!」そう誘うフランケンは笑顔だ。
僕は無愛想に席を立ち、ロッカーからランドセルを取り出した。
「早くしなさい、みんな着替えてるわよ」
教科書を叩きつけた担任が僕に怒鳴り声をあげる。
彼女はヒステリックを擬人化したような教師だ。
僕はみんなみたいに素直に振る舞う純粋さを持ち合わせていない。
包帯で隠しているのは身体だけじゃない、そんな自覚は僕にもある。
三時間目まで残り二分となり、しびれを切らした担任が僕に寄ってきた。
「早く着替えなさい、って何度言えば分かるの?」
そう言いながら彼女は、僕の包帯の結び目に手をかけた。
必死にその手を振り払うが、小学生の僕が敵うはずなかった。
するりと包帯がほどけていく。僕は耳まで真っ赤になっていたはずだ。
僕は朝から履いてきた学校指定の海パン一枚になった。
ずっと、ずっと楽しみにしてきた水泳の授業だった。
だからこそ「三時間目は体育館でやります」の一言は残酷すぎたのだ。
担任は穏やかな表情に戻り、そっと僕の顔をのぞき込んだ。
近くで見る透明感のある素肌が、僕の鼓動を速めていった。
一方で両目から溢れる大粒の涙が、僕の屈辱を嫌というほど表していた。
見るんじゃねえよ―その言葉を発しようとした瞬間、彼女が口を開いた。
「放課後には雨止んでるよ」
二人きりの課外授業に期待を残して、僕は体育館に駆けだした。