別に堂々と歩く、彼女は僕にしか見えないのだから。
初めて会ったときの彼女は只の無愛想な女だった。
僕の進路上にいる障害物となんら変わりなかった。
彼女の悲しみをたたえた目は冷たく見えたが、それでいてどこか
許してくれるような優しさをにじませていた。
お風呂で暴れた。彼女は僕にしか見えないのだから、僕一人で暴れたことになる。
三回目の出会いで彼女は太った角刈りの男性になっていたが、別段問題はなかった。僕にしか見えないのだから、と僕は彼女、とおぼしきその男性に何度も何度も唇を重ねた。
愛するということで彼女が愛すべきものになり変わることを薄々と確信していた。
彼女は27回目の接吻で誤って数千匹の小魚に変身したが、小魚を
4,5匹飲み込んだあたりで見たこともない美女に変身した。外人だった。
僕はファッションデザイナーになっていた。もしくは最初からそうだった。
通りがかりのショーウィンドウに飾られたワンピースを見て僕は彼女に
似合いそうだと言った。
母は、それが似合う彼女がいるなんてあなたもまだ子供ね、とこぼした。
僕は八歳なので子供なのだが、社会的には大人なのでそうではならないのだが、だって子供なんだからと相槌を打った。
町の灯を反射した冷たい湖面は世界と隔絶された存在のように落ち着いて静かで、その底知れぬ深さを見るものに感じさせる。
湖に沿って歩く僕は友だちに彼女がいかに美しいか、いかに素晴らしい人格であるか、いかに僕に従順で愛し合っているかということを力説した。
友だちはただ薄ら笑いのようなものを浮かべてへらへらと返事を繰り返し、少し僕を苛立たせた。どうして羨ましがらないんだ。羨ましいはずだろ。
彼は、だって俺たちにはその女が見えないんだから、と言った。
僕は