そうだ! 家の手伝いで忙しくてできなかった事にしよう!
「かーちゃん。何か手伝う仕事ある?」
「あんたの仕事は勉強する事でしょ」
しまった。策士策に溺れた。
そういや、『溺れた』で思い出したけど夏休み中に放流した金魚、どうしただろう。
金魚ってボットン便所で生きれるのかな。
それはそうとして、宿題どうしよう。
……
そうだ!
ボットン便所で金魚が生きれるかどうかを自由研究にして出そう!
そうしようそうしよう!
さっそくノートと虫眼鏡持って便所へ行こう!
―――――――――
んー。便所に来たはいいけど、臭いし暗いし全然底のほうが見えないなぁ。
もうちょっと近づけば何とか……
「……ぉ.ぇヵ」
……気のせいか、音が、した。
そんなはずは無い。
家族は俺以外全員出かけてる。
田舎だから隣家の声は聞こえないほど遠くだ。
しかし、そもそも音が聞こえたのは……
「……ぉ.ぇヵ」
眼下に広がる、暗い、暗い、闇の底から……
「ゥォオオオオオッッッッ」
その瞬間、目の前に広がったのは、テラテラとヌメり輝く真紅の鱗。
凶暴なまでに巨大化し、その一振りで人を薙ぎ払わんとする醜悪なヒレ。
そう。それはまさに、食肉海獣を連想させる不吉で不穏なフォルムを持つ『金魚』だった。
そして、視界全てを覆い尽くすその巨大な金魚は、今まさに自らをこの不浄の地に貶めた私を食い殺さんとし――――――
「渡辺君。私は作文じゃなくて読書感想文を書いてこいと言ったはずですが」