「しゃもじの歴史を学ぶところから始まり、しゃもじを作り、
しゃもじの握り方を学び、しゃもじの振り方を学び、しゃも
じを使った技を学んだ」
「それで?」
「しゃもじで人の家に押し入った。しゃもじで人のプライバシー
を覗きこんだ。しゃもじで家族団欒の時間を奪い去った。しゃも
じで俺は人を壊してきた」
「それで?」
「しゃもじで人を壊し、ぶち壊し、堕落させ、失墜させ、腐敗させた!」
「それで?」
「俺はどこまでいっても人間失格なんだ! 凡人にもなれやしない。人を
壊すことでしか、自我を保てず、人を壊すことでしか自画を描くことが
できない!俺は、俺は……人間失格だ」
「唐突だが、君にここでお便りを紹介したい。
『ヨネスケさん、こんばんは。先日、お邪魔していただいた佐々木です。
あの時は言えなかったのですが、実は私たち、ヨネスケさんが来るまで、
家族で食卓を囲むなんてことはなかったんです。でも、ヨネスケさんが
きてくれてから変わりました。このままじゃいけないんだって、気づけ
ました。ありがとうございます』」
「俺は……」
『覚えているかな? たかしだよ? 僕、実はいじめられていたんです。
でも、ヨネスケさんが来てくれてから、いじめがぱったりなくなり
ました。ヨネスケさんのおかげです。ありがとう』
「俺は……人間失格だ」
「おいおいまだ手紙を俺に読ませる気かい?まだ一万通以上あるんだぜ?
なあ、ヨネスケ、そろそろ目を覚めせよ」
「僕、まんこぺろ蔵だもん。目を覚まさないもん」