簡単に勝ったことなんて一度もなくて、いつもギリギリのところで勝っていたんです、トランプタワーみたいに心技体を慎重に重ね合わせて組み立ててやっと一勝ができるんです。
負けた日は、前日の夜にちゃんこがしょっぱかったことを気にしていました。
いつもは味付けは私がやっているのですが、「やってみ」と後輩力士に任せてしまったのです。
するとどうでしょう、ちゃんこは少ししょっぱかったのです。これでは身体に少し影響が出てしまいます。少しでも狂うと絶妙なバランスで成り立っている心技体のトランプタワーは崩れてしまいます。
「濃いがな」
と、言ってしまいました。私は後輩力士を責めてしまったのです。「やってみ」と言ったのは私なのに「濃いがな」と言ってしまったのです。
横綱らしからぬ発言でしょう。私がすべき味付けを任せ、間違いを他者の責任とした。恥ずべきことです。
その日はその事が頭の中いっぱいで殺してくれーって感じでした。