いわゆる父は、生粋の大食漢でした。まあ昼夜問わず、暇さえあれば何かつまんで食べていましてね。食が何よりの楽しみであり、幸福の根源としているような男でした。しかし、そんな父も晩年は、病の影響からか、食が細くなりましてね、ええ。いつからか、あの父が中華料理店に入っても単品のラーメンしか頼まなくなっていました。じきに、病気の進行を理由に、入院生活を強いられましてね。父は、病床から窓の外を眺めて「あぁチャーハンが食べたい、チャーハンが。半チャーハンでもいい。」と、か細い声で悲痛な叫びを繰り返していました。病院食もろくに喉を通らない父が、油にまみれたチャーハンを食べられるわけがない、家族も、当然本人も、そんなことは重々分かっていたんです。一度無理を言って出前を取ろうとしたら、主治医にこっぴどく叱られましてね。こりゃかなわんな、と諦めていました。そんな時でしたね。朝刊からこぼれ落ちたあの大会のチラシを見つけたのは…。
―――――――――――――――――――――――――――
今年で15になる息子のたかしは、いわゆる虚弱体質でしてね。未熟児で生まれて今日まで、いくつも病気をしましてね。喘息で眠れなかった夜をいくつ数えたことか。そんな息子は、野球でもサッカーでも、テレビで観戦するのが好きでね。医者に屋外での運動を制限されていなければ、好きなだけやらせてあげられるのに。ブラウン管にかじりつくようにして、画面の向こうに思いを馳せる息子を見ていると、「あぁ、父親である私の体と代えてやれるのならどんなによかった事か…」と口惜しさに震えました。同じ年頃の子らの笑い声が響く河川敷。息子が窓の外を見て「あぁ野球がしたい…サッカーがしたい…投てき競技でもいい…」なんてため息まじりに言うもんだから。そんな息子に、何を言ってやればよかったのか…。そんな時でしたね。朝刊からこぼれ落ちたあの大会のチラシを見つけたのは…。