「鎖朝(くさりあさ)!」
その部屋で蛹のように眠っていたことだけは確かに覚えている。
気付いた時には時計が金属音で朝の空気を掻き回していた。
カーテンの隙間からは冷たい粒のような朝日が射し込み、窓の外から聞こえてくる小鳥たちの声は寝ぼけた耳を雨のようにノックし続けている。
鳴り止まないアラームを止めて文字盤に目をやった。まだ起きるべき時間ではない。
セットした時刻からは30分近くずれている。故障でもしたのだろうか。
よく見ると胴には黒ずんだ錆が僅かに生えており、光沢も鈍く輝きを失っている。
この目覚まし時計をここまでしっかり見たのはいつ以来だろう。毎日目に入れているはずなのに。
もうすっかり目は覚めきってしまったが、起きていてもすることはない。
再び布団に潜り込もうとすると、中は最初から誰も眠っていなかったかのように冷え切っていた。
構わず身体を押し込む。繭のような布団に覆われて体温が徐々に奪われていく。
蛹は身動ぎひとつせず、冷たい頭で考えた。
なぜ自分はこんな所にいるんだ。
なぜ自分はこんな所で目覚めたんだ。
なぜ自分はこんな部屋にいるんだ。
なぜ自分はこんな部屋で目覚めたんだ。
机は無く、椅子は無く、テレビは無く、パソコンは無く、掃除機は無く、エアコンは無く、扇風機は無く、本棚は無く、鞄は無く、タバコは無く、財布は無く、鍵は無く、時計は無く、布団は無く、カーテンは無く、窓は無く、扉は無く、ただ蛹だけが横たわっている。
こんな所に誰がいるんだ。
こんな所で誰が目覚めるんだ。
こんな部屋に誰がいるんだ。
こんな部屋で誰が目覚めるんだ。
こんな部屋で誰が朝を迎えるんだ。
誰のための朝なんだ。
誰のための朝なんだ。
誰のための朝なんだ。
誰のための朝なんだ。
誰のための朝なんだ。
誰のための朝なんだ。
「山田涼介(やまだりょうすけ)!」
キャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!! 山田くぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ハイ、キュッキュッキュ。(ザ・たっち)