「すまなかったなぁ。お前には苦労をかけた。」
そう語る父の背中は子供の頃の記憶より小さく見えた。彼が窓の外を眺めているのは景色が見たいからじゃない、単なる照れだろう。
「今まで悪かった。これからは自由に、好きに生きたらいい。」
そう語る背中をじっと眺めていると、不自然な服のしわに気づいた。石を落とされた水面のような、同心円状のしわだ。
「明日、墓参りに行こうか。母さんも寂しがってるだろう」
そう語る同心円を見ている内に、ある衝動が起こった。ダーツを投げたい。あれにダーツを投げたい。
「・・お前は将来の夢とかあるのか。言ってみなさい」
そう語る的から目をそらすと、私はあり得ないものを見た。私の手が、ダーツを握りしめている。なぜだ、何が起こった。ダメだ私。抑えろ、ダメだ、ダメ、ダ、ダーツ、ダーツ、ダーツ、ヲ、ナゲタイ
「はうわっ!?」
そう言って倒れた50点に私は駆け寄った。なんてこと、なんてことをしてしまったのか。
「ご・・めんな。今まで。ご・・めんな」
そう謝る言葉に私は涙が止まらない。号泣しながら、姿勢よくピーンと倒れた父を抱きしめた。
「・・・」
ナゲタイ。ナゲタイ。ダーツ、トシテ、ナゲタイ