「右手に見えますのが、有名な金閣寺でございまーす」
バスガイドのお姉さんが右を指すのにつられるように、みんな一斉に窓の外を見た。
「すげーめっちゃ金だー!」
口々にはしゃぐ声が聞こえる。
今日、ぼくたちは修学旅行で京都に来ている。
産まれて初めて見る純日本的な風景に、バスの中は興奮醒めやらぬ状態だった。
「左手に見えますのが、清水寺でございまーす」
「うおぉぉ!」
ガイドさんに誘導されるかのように、みんなも一斉に動く。
だが、僕だけはみんなと全く違う場所を見ていた。
ガイドさんの向こう側――ようするに運転席だ。
運転手さんの首が、こくこくしているのが見えた。
「あっ――」
僕は一気に血の気が引いた。
皆に知らせなきゃいけないと思ったけど、恐ろしくて声が出なかった。
前方にガソリンスタンドが見えた。
運転手さんは、ハンドルにもたれ掛かって動かない。
バスは吸い込まれるように、スタンドへと向かっていった。
――凄まじい轟音。
すごい熱風が僕の体を襲った。
奇跡だった。
僕は意識を失ってなかった。
座席が1番後ろだったということもあるだろう。
転倒したバスは、僕の真上のガラスが割れていた。
物凄い熱気から逃れるように、僕はガラスの無くなった窓から外へはい出た。
バスは炎に包まれていた。
「嘘だっ…!ゆうくん!さきちゃん!みんなぁぁ!!」
僕は泣きながらみんなの名前を叫んだ。
返事はなかった。
がしゃあぁぁん!
僕の叫びに呼応するかのように、炎に包まれたバス前側のガラスが割れた。
そこから出てきたのは、ガイドさんだった。
服は所々焼け焦げて、だいぶ弱っているように見えた。
ガイドさんは僕を見つけると、虚ろな瞳でこう言った。
「こ…これが有名な…バスガス爆発でございます…」
「黙れブスバスガイド」