最悪だ。肺炎で修学旅行に行けなかった。
退院して、今日は久しぶりの学校だ。
2年C組、少々懐かしい教室の前まで来ると、笑い混じりの騒がしい声が聞こえた。
変わってないなぁと思うと、少しホッとした。
「おはよう」
久しぶりの登場に、皆どんな反応をするんだろうと期待して俺は教室に入った。
――談笑が続いている。
俺の方を振り返る奴は一人としていなかった。
「おい、どうしたんだよ!
中村賢吾様が帰って来たぞー!」
俺はいつも一緒にバカ騒ぎしてる野田と西垣の方を見た。
二人ともまるで俺の声が聞こえていないみたいに喋っていた。
「な・・・なんだよお前ら。いきなり無視かよ」
俺の中に不安がよぎる。
曇天に、チャイムが響いた。
「おーい、授業始めるぞー」
ガラガラッと戸を開けて、担任で日本史担当の安井先生が入って来た。
みんなが自分の席に戻るのをみて、俺も急いで席につく。
「中村は・・・今日も休みだな」
血の気が引くのが、はっきりわかった。
1番考えたくなかった予感がだんだん形になっていく。
――俺はもしかしたら、死んでいるのかもしれない・・・
「先生!俺います!出席してます!」
俺はガタンと席を立って、先生に呼び掛けた。
「じゃあ教科書51ページ開いて」
先生はいつもと変わらぬ様子で授業を始めようとする。
変わってない。俺以外、何も変わってないんだ。
「・・・うわあああぁぁ!」
俺は堪らなくなって教室を飛び出した。
「――中村くん?」
突然、かかった声に俺はビクッとした。
「水口先生!」
振り返ると、英語科の水口先生がそこにいた。
「中村くん?中村くん!?どうしたの?」
「うっ・・・水口先生・・・」
俺は水口先生の元に駆け寄った。初めて存在を確認してもらえた安堵感で、ぽろぽろと涙が零れてきた。
先生は、何も言わずに俺を抱きしめてくれた。
「そうだよね・・・辛いよね・・・中村くん」
先生の声は震えていて、俺と一緒に泣いてくれているみたいだった。
「修学旅行の飛行機が墜落して、中村くん以外のクラスメートと先生、全員亡くなったんだもんね」
「・・・え?」