「失礼します」
ついに俺の面接は始まった。
初めて俺が最終面接まで残れた企業。絶対に採用内定をもらってやるんだ。
名前を言って椅子に座る。ここまでは練習通り。
三人の面接官が俺の顔を覗き込んでいた。
ヤバイ、緊張する。
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
『面接官なんて野菜だと思っちゃえば楽勝だよ』
沙織が言っていたことを思い出した。
野菜…野菜…
俺は呪文のように念じながら面接官の顔をじっと見た。
にんじん、じゃがいも、玉ねぎ
見える…こいつらは野菜だ!
そう思うと緊張しなくなった。
「では、志望動機を教えてください」
「はい、この会社の自由な社風が気に入りまして…」
俺は丸暗記した動機をよどみなく喋っていく。目線は面接官の顔。
にんじんは綺麗な赤色で、じゃがいもは泥つき、玉ねぎはみずみずしく、新鮮な野菜なんだということがわかった。
これでカレーを作ったら美味そうだ。
「何かサークル活動はされていましたか?」
カレーは俺の得意料理だ。いつも沙織がおいしそうに食べてくれる。
「…では、そのサッカーサークルで1番大変だったことは?」
切り方は大胆に。具はゴロゴロしてた方がおいしいんだ。芋の皮は少し残っている方がいい。
「では、面接はこれで終わりま…おや、どうしたんですか?」
29日 午後1時頃 園部市の大学生 伊藤祐樹容疑者(22)が、面接官をしていた同市の会社員 赤井仁さん(46)、佐賀妹人さん(52)、根木玉男さん(50)を持っていた刃物で切り付けたとして逮捕された。
容疑者は動機について「自由な社風が気に入ったんだ」と、わけのわからないことを話しており、現在詳しく調べを進めている。