「ほらよ」
バッグを肩から下ろし、目の前のテーブルにその中身を無造作に広げる。
「約束の金だ」
向かいの男が訝しげな表情で顔を上げ、テーブルの上を見やる。
同時にその顔が驚きの色に染まる。まさか本当に用意してくるとは思わなかったのだろう。
俺はため息をつきながら椅子に腰掛ける。
「タバコ持ってるか?」
こくこくと頷いた男は胸ポケットからマルボロを取り出す。メンソールは好きじゃなかったが、まあいい。受け取ってやる。
それにしても今回の仕事は骨が折れた。トンズラこく時に頬を1回、耳を2回銃弾が掠めたし、まだこの辺りにはあいつらがうろついている。
ここを嗅ぎつけるのにはまだしばらく時間がかかるだろうが・・・。
疲れ切った表情でタバコに火をつける。
男は珍しい物でも見るような眼で俺を眺めている。
思えばこいつには悪いことをした。
金を持っているのかと聞かれてから、返事もせずに飛び出してしまった。
あの時のこいつの焦り切った声ときたら傑作だったな・・・
俺が戻ってくるなんて夢にも思わなかったろうに。
ゆっくりと煙を吐き出す。
しかし相変わらず派手な恰好してやがるな、こいつ。
特にトレードマークの帽子は、遠目からでも一発で分かる程に目立つ。
くくくっ、全く、何処かの国の貴族じゃあるまいし。
灰が床に落ちる。
「さあ金はここにある。約束通り見せてもらうぜ。この前の続きをな」
俺が徐ろにこう切り出すと、動揺を隠せない様子で男は言った。
マジシャン「いや、あの、一枚でいいんですよ」