明智光秀は細川藤考に茶に招かれたことがある。
細川邸の客間に通された光秀は、風の通る縁に出、ぼんやりと端居して藤考を待っていた。
やがて、藤考とその夫人があらわれた。夫人の腕にはまだ一歳になったかならぬかという男児が抱かれている。
藤考「惣領でござる」
光秀はにじり寄ってその幼な顔を覗きこんだ。この幼児が後の細川忠興で、光秀の娘お玉(ガラシャ)を娶り、関ヶ原の合戦で活躍し肥後五十四万石に封ぜられる。が、この幼児とそのような因縁を結ぶに至るとは、覗きこんでいる光秀には無論わからない。
茶の支度ができた。案内されて客の座に座ると、茶ではなく一椀のとろろが出た。(心憎い)と、光秀は思う。茶とは客を接待する心術であるとすれば、遠道を駆けてきた空腹の光秀にいきなり茶を飲ますよりまずとろろで胃の腑にやわらぎを与え、ゆるゆると精気を回復させようというこの心づかいこそが茶道であろう。「いかが、いま一椀」と勧めながら藤考はくすくすと笑っている。茶に招きながら茶でなくとろろを勧めている自分が可笑しかったのであろう。光秀は諧謔を解さないところがあるが、この場の可笑しさには気付いたらしく、この男にしてはめずらしく冗談を言った。
光秀「これは、藤考君のおちんちんミルクかな?」
藤考「・・・」
後は特に話も弾まず、日の暮れぬうちにとお開きになった。
ほどもなく、将軍足利義秋が織田信長に光秀を推挙した。信長は決断の早い男で、すぐに光秀を岐阜城に呼んだ。だが、光秀の心は晴れない。
一階の大広間で謁見。光秀は下座で平伏している。自然、信長に頭頂部を向ける格好となっている。光秀は髪が細いため、日に焼けて赤くなった地肌がみえていた。
信長(禿げておる。さわりたい)
平服しながら光秀は、細川邸でのことを思い出している。
光秀(なんであんなこと言ったんだろう)
信長は、光秀の頭だけをじっと見つめている。
みているうちに、さわりたい、という衝動をついに抑えきれなくなった信長は奇声をあげて光秀に飛びかかった。
信長「メケェーモー!!」
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
信長「ケェーモー!!メケェーモー!!!」
光秀(ケェ?毛と言ってるのか?毛がどうした、オレの薄禿がそんなにおかしいか!コンチクショウめ!!)
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた・・・
信長「ブッ、ブヒー!」
光秀(だが、オレの薄禿にみせるこの激情、苛烈な表現・・・あるいは)
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
光秀(英雄かもしれぬ!!)
光秀「ぎゃーん!気持ちいー!!」
信長「気持ちいいじゃねぇよ、ぶっ殺してやる!」
と、信長が三階の茶室から碗を取ってきて光秀に投げつけるシーン