「松本孝弘って言います。B'zでダンサーやってます。これ名刺」
指と指の間に挟めるだけ挟んで、片手で計4枚。
「好きなだけ持っていっていいよ」
俺はバカにされている。
早く帰ってダッチワイフの乳輪をさばきたい。
名刺を受け取り挨拶も早々に席を立つ。
しかし次の瞬間、俺は明治時代に飛んでいた。
厠だ。
文明開化後はトイレットと呼ばれている。
士農工商を問わず、誰もが占有することを許されるその空間に
今はきれいなジャイアンがうんこ座りしていた。
「名は」
「西郷隆盛でごわす」
「マジごめん」
「別にいいでごわす」
突然現れたことを咎めるでもなく、
隆盛は俺の手に握られた名刺にすっと手を伸ばした。
「それ、おいどんに下さらんか」
「いいよ」
「全部下さらんか」
「いいよ」
「天佑でごわす」
渡された名刺を次々とケツに当てがい、
隆盛は潤む瞳でポツリと呟いた。
「サンタってほんとに居たんでごわすね」
次の瞬間、俺は松本孝弘の前に帰ってきた。
「あれ?名刺渡して無かったっけ」
指と指の間に挟めるだけ挟んで、片手で計4枚。
「メリークリトリス。好きなだけ持っていっていいよ」
12月25日。
俺は泣いた。