男、赤茶けた荒野を歩いてゆく。
極度にデフォルメされた日本のアニメ映画のような太陽が
岩と砂ばかりの大地をじりじりと灼いている。
男、足を止めてドンゴロスの背嚢を地面に置く。
中から一本の苗木と移植ゴテを取り出し、硬い地面に穴を掘る。
苗木を丁寧に埋め、上から土をかぶせて、額の汗を拭う。
さらに背嚢から小さなじょうろを取り、男、そこで愕然とする。
男、ブリキのじょうろを逆さに振ってみるが、一滴の水も出てこない。
乾いた地面に陽炎が立ち昇り、男、荒野の真ん中で途方に暮れている。
男、留守を頼まれた者なのでよくわかりません、という表情で天を仰ぐ。
胸の前で九字を切り、なにか言おうとしたところで
決まって映写室から罵声のような野次が飛び、上映中止になる。
* * *
客席が明るくなり、観客たちはうつむきながらしょぼしょぼと拍手をする。
急にテレビを消された子供のような気恥ずかしさが館内に充満し
誰もが申し訳なさそうな顔つきでタイミングを見計らいながら退席してゆく。
出口には清掃員の格好をした老人が待ちかまえていて
客のひとりひとりと握手をしては、あすもおいでよ、とやさしく声をかけ
たまに飴をくれたりもする。
ポップコーンの大きなバスケットを抱えた男の子がひとり、
最後まで残って映像の消えたスクリーンを見つめているが
この子はほとんど常連みたいなものなので、もう飴は貰えない。