ミホちゃんへ
おげんきですか。
いまぼくがいる場所について、あまり詳しく話すことができません。
チェックが厳しくて、書きたいことの半分も書けないみたいな気がします。
どこかミホちゃんの知らない場所で、ぼくは頑張って修行を続けています。
まちがった考えの大人をやっつけたり、
道を踏み外した不良たちをこらしめてやるくらいのことは
もういつでも簡単にできるようになりました。
そう言ったら、ミホちゃんは喜んでくれますか?
ぼくはもう、ミホちゃんやみんなには会わせてもらえないと思います。
最近、ふと、この力が怖ろしくなってしまうことがあります。
この修行を続けていると、左脳が少しずつしぼんでゆくみたいで
ぽっかり空いたその頭のすきまから、訳のわからない声や
自分のものじゃない考えが次々にあふれ出してきて、
時々、気が狂ってしまいそうになります。
お師様は「これは誰もが通る道なのだ」とおっしゃいますが、
何だか、ぼくがぼくじゃなくなってゆくような気がしてとても怖いのです。
だから、ミホちゃんにはぼくと同じ道を辿ってほしくありません。
学校やお家のなかで、辛いことがたくさんあると思うけど
簡単に力を求めるようなことはしないでほしいのです。
それから、間違ってもぼくを探したりしないでください。
どうしても何かに我慢できなくなった時は、またいつもの方法でお手紙をください。
今まで書いた手紙、ミホちゃんは読んでくれているのでしょうか。
ぼくも内容に気をつけて書いているつもりだけど、
ちゃんとミホちゃんのところに届いているかどうか、心配です。
それと、これからはあまりお返事も書けなくなるかも知れません。
そろそろ修行が最後の段階に進むからです。
これまでよりももっとずっと長くて、ひどく辛い修行です。
それが終わったとき、たとえばぼくが色んなことを忘れてしまったとしても
ぼくはミホちゃんのことだけは絶対に覚えています。
約束です。
ぼくみたいな子供を、もうこれ以上作らないためにも
ぼくは修行をやり遂げて、今よりももっともっと強くなろうと思います。
こんな力でもせめて誰かの役に立ってくれれば、
そのときぼくは、初めて胸を張ってこう言えるような気がするのです。
やっててよかった【検閲により削除】って……。