そういえば、こんな話を聞いたことがある
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その山のふもとにある茅葺の小屋に住んでいる爺さんは
熊をたった一発で仕留める
頭のド真ん中を目がけてズドーンとやるのだ
これは楽にあの世へ逝かせてやりたいという爺さんの優しさであった
頭を撃たれた熊は斜面を転がり
真っ白な雪の上に真っ赤な血をどくどく流す
爺さんは小刀を取り出すと、その場で手際よく毛皮を剥ぎ
川で洗い、小屋に持って帰って数日間天日干しにする
それを町で売り、その金で米を買い生活をしているのだ
爺さんは熊が大好きだった
しかし、そこらでは作物は育たず
生きるためにはそうするしかなかったのだ
ある日、爺さんがいつものように熊の毛皮を川で洗っていると
背後に気配を感じる
猟銃を構えたときには、もう既に遅く
頭ががあんと鳴り、周りが一面まっ青になった
その晩 空には綺麗な月がかかっていた
雪は青白く明るく、水は燐光をあげた
すばるや参の星が緑や橙にちらちらして呼吸をするように見えた
木と白い雪の峯々にかこまれた山の上で
黒い大きな毛むくじゃらがたくさん集まって環になって
じっと雪にひれ伏したままいつまでも動かなかった
一番高いところに爺さんの死骸が座ったようになって置かれ
それらの大きな毛むくじゃらは
参の星が天の真ん中に来ても
もっと西へ傾いても
じっと化石したように動かなかった
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部長「熊も爺さんのことが好きだったんだね」