「終わったよ」と僕は言った。
だけど返事はなかった。あるはずもなかった。
「……ううん、今やっと始まったのかもしれない。本当に大変なのはこれからだからね」
僕は自分に言い聞かせるように言った。
勇者と呼ばれる者たち。彼らとの決着がついたのはつい先刻のことだ。回復しきれない傷は長く激しい戦いの証だ。そしてそれはつまり、僕が強くなったという証だった。
でも――僕は思い出す。二人で笑っていられた日。
「今の僕を見たら、君は何て言うのかな。……分かってる。たぶん君は、何してんだバカって、そう言って、僕を怒るんだろうね」
はぐれ者同士よく気があった。あるいはそれは、仲間を失った僕らの傷の舐めあいだったのかもしれない。
だけど――それでも良かった。僕がいて、君がいる。それだけで、世界は素晴らしいと、そう思うことができた。そしてそれは、きっと、真実だったから。
『勝たなくていい。戦わなくていい。戦わなければ誰も傷つかずに済むから。臆病者? 勝手に呼ばせておけばいいじゃない。そんなことよりも大切なことが、世の中にはたくさんたくさんあるんだから』
戦わないことは、本当はとても勇敢なことなのよ。彼女は言った。
その通りだった。今僕は思う。
戦いの毎日はあの頃よりもずっと楽だった。経験を積めば誰だって強くなれる。それが、元々能力の高い僕らならなおさらのことだったのだ。
『どうしてみんな争うのかな。争いなんて無い方が、みんな幸せなのに。そうすれば私たちの家族だって…… え? ええ、そう、そうね。確かに、あなたと出会えたのは、私たちがお互いにはぐれ者同士だったからだけど。……でも、争いは今の私たちも引き離してしまうかもしれない。それだけは嫌。嫌なの。もう大切な人をなくすのはたくさんだから……』
そう言って流した彼女の涙を、僕は今も覚えている。とても綺麗で、儚くて、尊かった。
「もう5年になるんだね」
長いようで短いようで、やっぱり長かった。隣に彼女がいない時間は空虚としか言いようがなかった。
毎日のように夢を見た。彼女を目の前で失ったあの時のこと。目の前で彼女が殺された、あの時のこと。
「力が必要だったんだ。力に立ち向かうためには、それよりももっと大きな力が」
彼女は最後まで勇敢だった。いくら自分が傷つけられても、相手を倒そうだなんて、傷つけようだなんてしなかったんだから。
「君に比べて、僕はなんて臆病なんだろう。復讐という行為に逃げることしかできなかった。それは今までとは違う、弱さ故の逃避だったんだ。分かってる、分かってるんだ。それは君の望むことじゃない。……でも、そうでもしなきゃ僕は耐えられなかったんだ」
懺悔。そう呼ぶのが相応しい。
僕は君に、僕の罪を叱ってほしかったのかもしれない。そしてその上で、許してほしかったのかもしれない。僕の全てを見て、それでも、好きだと、愛していると言ってほしかったのかもしれない。叶わないことだと、分かっていても。
「君の夢見た争いのない世界。僕はきっと作ってみせる。そのための大きな力だと思いたいんだ。だから、だから――」
君の墓前。僕は祈る。
――また、僕の前で、笑ってよ
目の前の石に刻まれた『はぐれメタルB』の文字が、少し、笑ったように感じた。