僕はまず耳を疑った。ずっと好きだった山野すみれさんからそんなことを訊かれるとは思わなかったからだ。取り立てて仲が良いわけでもない僕にわざわざ訊きにくるような内容には思えない。するとなんだ? 罰ゲーム? これ罰ゲームか? 僕は教室中をくまなく見渡した。彼女がいくらお嬢様といっても、もちろん常日ごろから注目の的になっているわけではない。彼女が僕に話しかけたくらいでいちいちゴシップにするような奴もいない。廊下、ベランダ、天井、ロッカーの中、どこを見ても監視役の人は見当たらない。すると本気なのだろうか。本気で彼女は、僕に向かって「赤ちゃんの作り方」を訊いてきているのだろうか?
「あ、あの……もしかして迷惑、でした?」
「あ、いいや全然! えっとそうだね、赤ちゃんね」
「はい! じつはわたし、その、こうゆうの知らなくて……」
くりくりした邪気のない瞳で僕を見つめてくる。それだけで動悸は早まって息が苦しくなる。おお神よ、一体彼女に、いや僕に何の罪がありましょうか。こんな試練をお与えになるとはなんと罪深いお方か! 念じても神なんていないし、休み時間は刻一刻と短くなっていく。一体なんと答えたらいいのだろう? バカ正直に男女の仕組みについて説けばいいのか? そんなことをすればこの手の話題なら単語レベルで捕捉する悪友の地獄耳に届いてしまうし、そもそも時間がない。次の授業までもう5分を切っている。次は時間と黒板消しの状態にうるさい歴史の加藤だから延長戦も望めない。さあどうするどうするどうする! 僕は脳みそをフル稼働させて考えた。この間実に2秒弱。ん? と首をかしげて見上げてくる愛らしい彼女に向かって僕は言った。
「きちんと説明しようとすると長くなるんだけど、今じゃないとダメかな?」
「えっ、い、いえ、わたしはいつでも!」
「そ、そう。じゃあその、よかったら昼休みに屋上でもどうかな、なんて」
って何を言ってるんだ僕は! 理性と感情が頭のどこかでせめぎあってとんでもない言動の引き金になっている。それはわかる。わかるけど止められない。誰か僕を止めてくれ! これじゃ弱みにつけこむいやらしい男だ! いっそのことセックスセックス連呼してしまえ!
「ほんとうですか! わかりました、あの、その、楽しみにしてますから!」
「え? あ、うん、僕も、うん」
「それではお昼に!」
満面の笑顔で元気にそう返事して、彼女はぱたぱたと席に戻っていった。わけがわからずぽかんと口を開けて彼女を見る。一瞬だけ目が合って、すぐに向こうがぱっと逸らしてしまう。その後もちらちらと目線だけこっちによこして目が合っては戻す。それを繰り返している。
ええと、なんだこれ。どういうこと?
情報を整理しようとポンコツ脳みそを起動させたところで、肩を叩かれた。振り向くと悪友がにやにやしながら立っていた。
「よかったじゃんか、ええおい」
「え? え? なに?」
「この幸せもんっ! うまくやれよな?」
「え……えええぇぇぇぇ!??」
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という妄想を繰り広げながら、「それはだね! まんこにちんこを突っ込んでピストンピストン! ドピュゥ! イヤッフー!」とおおはしゃぎ。