見慣れない地図をたよりに、私は東京のとあるビルを目指していた。
なんでも大事な商談があると婆さんから話があったのだ。
鬼退治からはや3年、平和の戻った村で私は身をもてあましていた。
財宝はたっぷりあるので食うには困らないし、村の者も私を慕って
くれる。このままこの村で暮らすのも悪くない選択だった。
しかし、私の中にどこか釈然としない気持ちがあった。あの鬼ヶ島
の戦で感じたような熱い気持ち、つまりは闘争心が今の私には欠けて
いる。
「もう一度戦いたい。」
そんな気持ちを胸に私は東京へとやってきた。
期待を胸にビルに入ると、一室へと案内される。しかし、その期待は
すぐに失望へと変わった。
「どうもこんにちは、私はこういうものです。」
さくまと名乗る男が名刺を渡す。頭にへたのようなものがついている。
なんとも珍妙な面持ちだ。
「えのサン、ボンビーなのねん!」
榎本という男が口を挟んできた。頭が非常に大きく、尻をあらわにし
ている。まったくなんという格好をしているのだ。その横では土居と
いうタレ目で助平な顔つきをした男が座っている。この時点で既に私
の気持ちは萎え始めていた。
その後しばらく話をしてから、さくまは自分たちが編集をしていると
いう小冊子をよこした。パラパラとめくってみるとこんな文章が目に
飛び込んできた。
――――「奇襲!」といいながら屁をこくS
低俗だ!なんて低俗なんだ!こんな本を作っているような奴らと仕事
をする気にはとてもなれん!私は怒ってすぐさま部屋を後にした。
これが彼らとの最初の出会いだった。後に私と彼らが「伝説」を作る
ことになろうとはこの時は思いもよらなかった。