刻々と閉められていく鉄扉。無情に過ぎていく時間。教科書の詰まったカバンに今にも押し潰されてしまいそうになる。
焼けた喉が呼吸するほどに爛れていくような錯覚を受ける。どれだけの距離を走破したのだろう。
酸素不足に足が悲鳴をあげ理性が語りかけてくる。もうやめちまえよ。お前は間に合わなかったんだ、と。
黙れと自分を叱りとばす。小賢しい計算だとか、現実を見据えた妥協だとか、恥や外聞はもうたくさんだ。
目の前に彼女がいるのだ。いつもルールにうるさくて相手が男子だろうが上級生だろうが物怖じしない彼女が、この上もなく悲しげに門に手をかけているのだ。
彼女にそんな顔をさせているのは誰だ。
決まってる。この俺だ。
閉めさせてはいけない。彼女にこの扉を閉めきらせたとき何かが決定的に終わってしまう。彼女にそんなことをさせるわけにはいかない。
酸素不足も極まったか、一瞬景色も思考も真っ白になり、気がつけば俺は彼女の腕を掴んでいた。ただ体はまだ校門の外にあり腕一本通る隙間に全身を強くぶつけていた。
「ごめんなさい。残念だけど、君は遅刻なの」
なぜ彼女の声は震えているのだろう。なぜ誰よりも強く真っ直ぐな瞳が悲しく伏せられているのだろう。
俺は、間に合わなかったのか。
駄目だ。何だか分からないけどそんなの認めてはいけない。
だって俺の手は彼女の腕を掴んでる。遅すぎたなんて認めてはいけない。
「なぁ」
口を開いた俺の言葉を遮るように彼女は耳を塞いだ。ひきずるように俺の腕ごと。勢いよくぶつかったらしい全身が悲鳴をあげる。
「聞けって」
痛みはねじ伏せた。振りほどかれなかったのが幸いだ。逆に俺は腕を引いて彼女を引き寄せる。
大きく見開いたうるんだ瞳に俺を見ていた。
「おまえが好きだ」
驚愕に揺れる彼女におかまいなく体ごとひきよせる。抱けないのが残念だ。校門が邪魔だぜ。
「わたしも。わたしもあなたが好き」
あぁ、そんな嬉しそうに言われたら本当に止まらなくなりそうだ。こいつを好きって気持ちが。
お互いに相手を想い合いながら好きと繰り返す俺たちに周りから祝福の拍手が注がれた。