この世に存在する物質の中では最も正四面体の定義に近い立体とすれ違い、だが見返り美人は正四面体という概念を知らなかったために、その美しさに得も言われぬ造形美を覚えたものの、円錐、角錐、ピラミッド状の立体というような違和感のある呼称しか出て来なかったために見返り美人は躊躇し、しかしメタ的に見返り美人は自分が正四面体という名前を知らないために声をかけられないということを自覚していて、正四面体め正四面体めと思いながら正四面体を知らないというおよそ現実とは思いがたい葛藤に身を焦がしながらも、その正式な名称を知らない自分が一番悪いのだと結論することで、家に帰ったら何よりも先にまず「みんなのさんすう」を紐解き、吟味し、一流大学に合格して博士課程に進むことを決意するのである。これが後のイチローである。次郎である。見返り美人である。