殺し屋始めたての頃、職場と結構近めのところで依頼を受けたとき、平日使ってる弁当屋の前通ったら店員のおばさんに「あら、いつもと逆方向から来た。今日は違うところに車停めたんですね〜」って話しかけられて別に「ああそうなんですよ」ってだけ言えば良かったのにその後「今日いつものとこいっぱいで」まで言ってしまって「あれ?でもアタシさっきあそこ通ったらガラガラでしたけど…」と怪訝な顔を浮かべられてしまって予期せぬ返答に軽くパニックをおこして何も言ってないようなしどろもどろな言葉を吐いたあと急いでその場を去ろうとしたら転んで服の内側からピストルが零れ落ちてしまってまずい、見られる!と思って大急ぎで片付けようとしたらおばさんが突然トーンを落として「大丈夫だから、冷静に、丁寧に拾いなさい。いまは人通りも少ないわ、暴発するのが一番まずいでしょ」と言われ、面食らいつつもその通りに拾い上げて「失礼ですが、あなたは…?」と聞いたら「あら、レディに詮索はマナー違反よ?それに…殺し屋だってそうでしょう?」と言って割烹着の首元をすこしめくり、首にある覆面の境目を見せながら微笑みを浮かべた姿に、先輩としても一人の女性としてもすっかり惚れてしまって、初めは猛アタックしても中々相手にしてもらえなかったが、殺し屋としての色んなことを教わったり、ときにはともに仕事をしたり、互いのピンチに駆けつけ危機的状況を打破したりと、色んな波乱万丈を乗り越えるうちについにアタックが実を結び恋仲に、やがて結婚にいたり、今ではもうじき小学生になる双子も生まれ幸せな日々を過ごしており、妊娠と同時に足を洗った妻と子どもたちとの平穏な日々を守るためにも俺もこの稼業をやめるべきだなと考えながらも、裏路地に停めたセダンの中で愛妻弁当を頬張りながら、後部座席に載せたケースにぴっちりと敷き詰められた殺しの道具たちを眺めるのに至福を感じている自分に嫌気が差した夜は妻を思いっ切り抱くが、彼女の中で果てた直後の、まだ熱い自らのそれを見て、こんなもの、ただの銃じゃないか、と再び深い自己嫌悪に陥る