現在の時刻をただ数字として見るのではなく、顔に浴び感じた水飛沫の量に置き換えるような思考、つまり人類が共通して持っている形式を放棄し、感性というフィルターを通して新しいものを見いだす、そういう頭の使い方はアホ山くんにもできる、いやむしろこれこそがアホ山くん得意分野なのでは?という先生の決めつけ、偏見により、このテストは絨毯の編み目をひとつひとつ数えていく作業を飛び越え、アホ山くんが絵本の世界に飛び込むような45分間となった。ここでは詳しい説明は省くが、このテストは新学社で発行されている小学校2年生用の問題が20問と、文部科学省によって制作された特殊問題が5問の、計25問からなる。後者は紙上に文字記号の類いが一切存在せず、数枚の抽象画だけで構成されている。後者の内容はトップシークレットであり、試験監督の役はアホ山くんが在校している小学校の教員の代わりに、文部科学省の大臣が務めることとなった。なおこのテストの対象となった小学生は、世界でアホ山くんただ1人である。
持ち込みが許可されている道具が無双竜機ボルバルザークのみという、ありえないルールは、当然ながらアホ山くんの脳内だけで完結した、架空の設定である。前半の20問をすべてスルーしたアホ山くんは、鼻と唇の間に鉛筆を装着し、お決まりのウンチングスタイルを披露しながら、マインドフルネスの世界に入り込む。アホ山くんにとって、抽象画はすべて九九である。そしてその九九表を構成する数字にも、違うイメージを見てとる。アホ山くんにとっての0~9はそれぞれ「ボール」「電柱」「白鳥」「マンション」「船」「受話器」「お母さん」「キリン」「チョコレート」「桜」である。
「これらのイメージがアホ山くんの計算力にどう影響するのか」「前半の問題が解けていないのなら、多分無理なんじゃないか」と思われるかもしれないが、実はこのテストの意図はそこではない。アホ山くんが0~9の数字から何をイメージするのか、それだけが文部科学省の大人達の論点である。しかし上記の結果を観測した文部科学省大臣は、アホ山くんの口内に仕込まれた毒薬を破裂させる機械を作動させてアホ山くんを毒殺してしまった。大臣の釈明文はこうだ。「3がマンションとかちょっと変で面白いところもあったけど、やっぱり普通の子供の範疇やね。でも別に何をイメージしたとしてもスイッチは押してたかもしれん。俺のこと知ってる人なら分かってくれると思うけど、俺はそういうとこがある」
幸いアホ山くんは自力で119番を押し、一命をとりとめたが、運ばれたのはえろい病院で、ここで行われている触診は成人した俺達にとっては可愛いものだが、こんなカスみたいな出来事もアホ山くんにとって砂の城を崩されたような一大事である。