エフ氏は敏腕のセールスマンだが、ここのところうすぼんやりと彼についてまわる幽霊に悩まされていた。
それはどうやら中年の男のようで、なにかを訴えかけるでもない。
うらめしそうに部屋のすみからじっと見つめてくるだけだった。
ある日新作の薬のセールストークをしていると、エフ氏は幽霊がもぞもぞと動くのを見た。
こんなことははじめてだ。腕を上げて、大きなポーズを作ろうとしている。変身でもするのだろうか。
いやこんな幽霊に気を取られてたまるかと、エフ氏は商談に熱をいれた。
「ええ、この新薬では過去のおすきな時に飛ぶことができます。飛ぶといっても何かをさわったり、音をだしたりはできませんが。見るだけですがきっと歴史調査にも役だちますよ。」
幽霊はまだもぞもぞと動いている。だんだん輪郭がはっきりしてきたようだ。まけじとエフ氏も声を張りあげる。
「いろいろな事件の調査にもつかえます。人類への利益ははかりしれませんよ。」
幽霊がおおきく動きはじめてついつい目をやってしまう。どんどん形がはっきりしてきて、それはエフ氏自身の影になった。おや、俺じゃないかと思うまもなく、すぐにもう一つ影があらわれた。
それはまぎれもないエフ氏の妻だった。
手で大きなバツ印をつくる自身の影が、妻の影に引っぱられて消えるのを見たエフ氏は、すべてを理解した。
過去に浮気をしたこと。疑う妻になんとか言い逃れをしたこと。
すぐ契約書を取りさげないとと思うエフ氏の耳には取引先の嬉しそうな声がはいってきた。
「契約成立です。おっしゃる通りすばらしい薬だ。すぐに実用化を……」
◆
「もしかしたら僕は今から君たちを飲みに誘うけど、僕の誘いを断ってもいいしあるいはそうしなくてもいい」と男は言った。僕の返答を待つ間、彼は浮かせた右手のやり場がなさそうにしていた。まるで初めて外に出された室内犬のように。「いくか行かないか、決めることに意味はあるんでしょうか」僕は座り直しながら言った。行き先としては、あのしけたバーしか思いつかなかった。「意味はあるかもしれないし、ないかもしれない。しかしほとんどの場合、誰も覚えていない」急にいったい自分が今何をしているのか、これから何をしようとしているのか、僕にはまるでわからなくなってしまった。僕はふと思い出してスーツのポケットの中を探り、二枚のポケモンシールそこに見つけた。懐かしい手触り。それがなんとかうまく神経をなだめてくれた。
無機質な蛍光灯に照らされた部屋には、廊下からオフィスの有線放送がかすかに聞こえてくる。イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」だ。会議室の中で聴くのにうってつけの音楽とは言えないはずだ。男は数小節分、鼻歌で歌った後、僕の隣に座っていた女と手を繋ぎ、会議室を去っていった。この女の人はとうとう一言も口をきかなかった、と僕は思った。やれやれ。たまらなく惨めな気分だった。
◆
商談破上司在
新宿御苑春草木深
感時接待濺涙
恨会社給与明細驚心
残業連三月
雑所得抵萬金
円形脱毛掻更短
渾欲不勝満員電車
◆
くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたらアンソロを持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、みんなへのメッセジをどぞ
新一「みんな、見てくれてありがとうちょっと腹黒なところも見えちゃったけど……気にしないでね!」
春樹「いやーありがと!私にしちゃあ二十分にやってるんじゃないかということになるんだろうね」
甫「・・・将出涕」ファサ
では、
新一、春樹、甫、俺「皆さんありがとうございました!」
終
新一、春樹、甫、「って、なんで俺くんが!?改めまして、ありがとうございました!」
本当の本当に終わり