げに恐ろしきかな東北の真冬。
収縮と硬化を繰り返した2Bの黒鉛はあわれ鉛筆の中程でスポリと抜け落ちてしまった。
少女は小刀を持たぬ。だから鉛筆は削れぬ。
そして日本人が再び小刀を握る世などはもう二度と来ぬ。
侍の世は去り、押し寄せる近代化の波の中で一瞬の栄華と敗戦を味わった。
焦土の中に蘇った屋根屋根の下では打ち捨てられた武器の代わりに、
まだ輝きを放つそろばんと筆記具、そして小刀が常に傍らに置かれていた。
今、我々の手には予定とあざすが溢れかえる金属の箱が握られている。
ところで少女は傷を負っている。
心配性の母親とヒステリックな青春が最悪の頂点でピタリと一致してしまったのだ。
放たれた少女の一撃は文化住宅のガラス戸を突き破り、掌を深く傷つけてしまった。
今、再び少女の傷口は開く。
黒が駄目なら赤でもいいだろう、人生の最高潮である。
異常に気が付いた試験官に連れ出される少女の絶叫が薄ら寒い大学の講堂に木霊する。
急を知らせる試験官の手には金属の箱が握られている。
そして少女を押さえつけるもう片方の掌は、今、再び確かに小刀を感じ取っているのだ。