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ボーン――――と大層に飾られた古時計の鳴る音が応接室に響き渡り、昼下がりの1時を報せる。
「あと1分延ばしてくれると助かるんですがねぇ」
「ダメダメ、時間は決まってるんだよ」
ため息と共に、ウルトラマンの目を見ようともしないで社長は冷たく言い放った。
「しかし、僕には人類を救う使命があるのです」
「君だけ特別扱いすることはできない。私にだって責任があるのだよ」
「……そうですか」
語尾を濁しながら、ウルトラマンはゆっくりと不服そうにうつむいた。
だが突然、ウルトラマンは脇にそびえる野暮ったい古時計を見やり、乾いた声でこう言った。
「ならば、時間という概念をなくしてしまいましょう。時間なんてものがあるから、僕は地球を救えない。ならば時間なんてなくていいんです」
何を言っているのだこの人類の下僕は、と言いたげな怪訝な表情で社長がウルトラマンを見、彼につられるように時計へと視線を移した。
すると不気味な音を立てながら、時計の針がものすごい速さで回転していった。盤上では瞬く間に一時間、二時間が経ち、短針までもが目に見えてグルグルと回り出す。
「何をした、貴様!」
あまりの不可解な光景に、社長は目の前のウルトラマンを怯えた表情で糾した。しかしウルトラマンは平然と答える。
「時間なんて必要ありませんよ。時間という縛りがあるから僕は満足に怪獣と戦えない。僕は人類にとって害悪となるものを排除することが使命なのです。だから僕が怪獣と戦ってこれを地球から取り除くのと同様、僕は時間を取り除くのです」
「何だと?」
既に時計の針は進んでいるのか戻っているのかも分からないほど高速に旋回する。社長の目にウルトラマンは、老人とも子供ともつかない男として映っていた。
「どうです、社長。これで思い悩む必要もないことでしょう」
「何ということだ、ウルトラマンよ。確かに君にとって時間は障害だったのかもしれない。しかし時間がなくなってしまえば、人類の築いた歴史は一体どうなってしまうのだ」
「それは既に起こったことなのかもしれませんし、これから起こることなのかもしれません」
「だったら人類というものは存在するのか」
「いないのかもしれません」
「しかし……妙だな。君は確か人類のために時間を――――」
「ああ、社長。僕はこう見えて多忙な身です。次の予定がありますので、申し訳ありませんがそろそろおいとましなくてはならないかもしれません。ところで社長、今は何時でしょうか?」
慌てた社長は腕時計に目をやった。
「ああ、1時1分だよ」
「あと1分延ばしてくれると助かるんですがねぇ」
「ダメダメ、時間は決まってるんだよ」
ため息と共に、ウルトラマンの目を見ようともしないで社長は冷たく言い放った。
「しかし、僕には人類を救う使命があるのです」
「君だけ特別扱いすることはできない。私にだって責任があるのだよ」
「……そうですか」
語尾を濁しながら、ウルトラマンはゆっくりと不服そうにうつむいた。
だが突然、ウルトラマンは脇にそびえる野暮ったい古時計を見やり、乾いた声でこう言った。
「ならば、時間という概念をなくしてしまいましょう。時間なんてものがあるから、僕は地球を救えない。ならば時間なんてなくていいんです」
何を言っているのだこの人類の下僕は、と言いたげな怪訝な表情で社長がウルトラマンを見、彼につられるように時計へと視線を移した。
すると不気味な音を立てながら、時計の針がものすごい速さで回転していった。盤上では瞬く間に一時間、二時間が経ち、短針までもが目に見えてグルグルと回り出す。
「何をした、貴様!」
あまりの不可解な光景に、社長は目の前のウルトラマンを怯えた表情で糾した。しかしウルトラマンは平然と答える。
「時間なんて必要ありませんよ。時間という縛りがあるから僕は満足に怪獣と戦えない。僕は人類にとって害悪となるものを排除することが使命なのです。だから僕が怪獣と戦ってこれを地球から取り除くのと同様、僕は時間を取り除くのです」
「何だと?」
既に時計の針は進んでいるのか戻っているのかも分からないほど高速に旋回する。社長の目にウルトラマンは、老人とも子供ともつかない男として映っていた。
「どうです、社長。これで思い悩む必要もないことでしょう」
「何ということだ、ウルトラマンよ。確かに君にとって時間は障害だったのかもしれない。しかし時間がなくなってしまえば、人類の築いた歴史は一体どうなってしまうのだ」
「それは既に起こったことなのかもしれませんし、これから起こることなのかもしれません」
「だったら人類というものは存在するのか」
「いないのかもしれません」
「しかし……妙だな。君は確か人類のために時間を――――」
「ああ、社長。僕はこう見えて多忙な身です。次の予定がありますので、申し訳ありませんがそろそろおいとましなくてはならないかもしれません。ところで社長、今は何時でしょうか?」
慌てた社長は腕時計に目をやった。
「ああ、1時1分だよ」