昨日、太陽が上りきったころ、都の真ん中を貫く大路に商人たちの悲鳴が響いた。どこから入りこんだのか、土色の肌の異民族の男がふらふらと現れたのだ。常軌を逸した様子だった。やがて衛兵が来て取り押さえると、意外にも大人しく地面に頬を擦りつけ、苦しい姿勢のまま、衛兵をじっと見た。衛兵は、彼の東方風の装束が黒く汚れているのに気がついた。背中に傷があるらしかった。彼は何かを訴えるように厚い唇を動かしたが、言葉にならず、苦しげに目を泳がせ、事切れた。
ほぼ同刻、国土の東の空にまばゆい光が閃めくと、何千丈あろうかという龍が、神話そのままの姿で雲間に身を躍らせた。衆民たちは我勝ちに出てこれを見上げた。珍しいものを見たと喜ぶ者あり、おののく者あり、手を合わせる者もあった。ひと鳴き、ふた鳴き起こると、城内の小さな家々は頼りなく震えた。やがて東の彼方へ、空に大きな虹を残して去っていった。
この一部始終を、王もまた、宮中の楼台から眺めていた。
王「吉兆か凶兆か分からぬが、ともかく大事が起きるのだろう」
臣下「すると、あの蛮人は…?」
王「ああ、東国で異変があったに違いない」
その夜、王の夢に懐かしい来客があった。砂漠の精霊であった。王はうやうやしく無沙汰の非礼を詫びた。
王「畏れ多い砂漠の精霊よ。拝謁の栄に浴し恐悦至極です」
精霊「なんで全裸??」