気怠い怠惰感が急激に彼を襲い、パキン、と音がした。よく目を閉じた時にみえるもじゃもじゃのような状態になったままで硬直し、(それはポリウレタンの繊維のようにもみえたが、ここではより近いもので表現しておく)時の空気を纏ったまんまで―恐らくその空気によって―みるみると冷えていった。床と一直線のままで、彼は凝り固まった氷像として魔王城に残り続ける。
長く続いた魔法期も終わりを告げ、さらに長い年月が経った。この草木のみが生息する時代に、氷漬けになった魔法期の化石が見つかったという風の便りが届いた。「これはこれは」とにっこり笑顔のS博士。魔法期はS博士の全盛期であり、S博士は魔法期を知っている唯一の存在でもあった。
S博士の熱によってすぐに氷は溶かされた。白が剥がれ落ちていき、出てきた物は奇怪な格好をしたヒトだった。コールドスリープ状態にあったのだ。
ヒトを初めてみた周りの雲は大興奮。S博士も「わしが存在している内にまたヒトに会えるとは」と喜んでいたが、はて、おかしいぞとS博士。
「氷の城に臨んだのだろう、なぜ扇風機に抱きついていたのかね」
「ええと、その年は猛暑だったので」と彼は言った。