僕の妻は『魔法使い』である。
妻は超人的な力を持っている。
その気になれば世界を滅ぼすことだって可能だ。
実際、妻は力を使いこの世界の殆どの人類を滅ぼした。
生き残った人類は、妻と、妻を愛していた僕だけだった。
妻は今、ベッドの上で寝ている。
顔は皺だらけで、身体は痩せ細っている。
魔法使いも老いには勝てなかったのだ。
妻は僕の作ったスープに一切口を付けない。
もう食事も苦しいということなのか。
本格的に死期が近いのだろう。
僕は妻の顔をじっと見る。もしかしたら、これが最後かもしれない。
すると妻はきょろきょろと挙動不審な動きをする。
長年連れ添ったのに、今更見られて恥じらうことがあるのだろうか。
しばらく見てると、妻は身体の上にある紙に字を書き始めた。
妻の耳が聞こえなくなってから、妻とは字でやり取りをしているのだ。
『懺悔します。私はまたあなたを騙してしまいました』
妻は時々、こんな風に僕に魔法を掛けてることを告白する。
とはいえどんな魔法を掛けたのかは教えてくれない。
僕の身体は至って健康で、問題らしい問題は起きていない。
『どうでもいいよ、結婚記念日にそんな話するなよ』
そう、今日は大事な日なのだ。もっと楽しい話をしたい。
僕は妻と他愛も無い話をした。妻は笑っていた。
ふと尿意を催し、トイレに行く。
用を足し部屋に戻る途中、あることを思い出した。
「プリン」
そうだ、今日はプリンを食べようとしていたのだ。
滅び行く世界の中でプリンは貴重品となっていたが、
僕は極秘ルートで幾つか手に入れていた。
魔法を使えば、プリンが腐ることもない。
そんな訳で記念日は二人で一個食べるのがお決まりとなっていた。
しかし台所に置いてあったプリンは全て無くなっていた。
おかしい、まだ残っていたはずなのに。
このことを妻に伝える為に部屋へと向かった。
妻の口元には黄色い残骸が付いていた。