娘「父ちゃん、もう歌手なんてやめなよ。歌手なんて今時古いよ」
私「30年歌手を続けてきたんだ、今更やめるわけがないだろう。
そもそも歌手が古かったら今新しいのはなんなんだよ」
娘「それはね、これボム」
私「ハッハッハ、ボムへいか」
それから1週間、私はボムへいと化した娘と生活を共にした。
ボムへいは手がない為、物が掴めず不便そうだった。
口もないはずだが何故か意志疎通はできた。
私「なんでボムへいになんかなったんだ」
娘「良いじゃん、面白そうだったし」
私「そういう好奇心でボムへいになるのは良くないよ。
それに一度ボムへいになったら二度と戻れないそうじゃないか」
娘「うるさいな、全く」
私「それにボムへいになったということは、いずれ爆発して…」
娘「うるさい!ボムへいになった私に説教する気!?」
1週間後、娘は姿を消した。
少し調べたところ、ボムへいの寿命は1週間程度だそうだ。
父である私に気を使ったのかもしれない。
家の中で爆発されたら娘だけではなく、
私の命も危ういことになっていただろう。
何故娘はボムへいになんかなったのだろう?
手も口も使えず、最期は爆発して木端微塵になるだけ。
それから数日間、私は家の中でゴロゴロと過ごしていた。
もう仕事をする気にもなれない。
私は娘を失ったのだ。
自分の歌は沢山の人に勇気を与えてきたと自負していた。
しかし実際は勇気を与えたはずの妻に逃げられ、
娘はボムへいになり消えた。
思えば私は仕事ばかりに熱を入れ、ロクに娘に構わず過ごしてきた。
娘はボムへいになることで、最期にアピールをしていたのかもしれない。
構って欲しい。もっと私を見てくれと。
そんな娘の気持ちも汲んでやらずに、私は娘に説教してしまった。
そして娘は目の前から消えた。もう二度と私の前に姿を現すことはない。
私のやってきた30年間はいったいなんだったのだろうか?
私はこの30年間、大切な物を捨て続けただけなのではないのだろうか?
私の人生に意味なんてないのではないか?
では、意味のある人生とはなんだ?
その時、私は娘の最期について一考した。
機械として過ごし爆発して終える、
その無惨ながらも奇妙な最期は何らかの意味がある物なのではないか?
1ヶ月後。私は歌手をやめた。
そして、最期に私の人生に意味を求めることにした。
私「ボムボム」