「はい、じゃあちょっとチクッとしますよ」
「チクッとします?」
「少しですけど」
「じゃあその……あのですね、取り引きをしませんか」
「……ちょっとよく意味がわからないんですけど」
「だからですね、あの、チクッとするんですよね?」
「はい」
「だとするとですね、チクッとするだけじゃちょっとアレなんで」
「アレ」
「そうですね、チクッとするだけだとアレなんで、じゃあチクッとしてパフッとするというのは」
「はい?」
「いやだから、チクッとしてイテッとなるよりも、チクッとしてパフッとしたほうがいい、まあ色々と、いいんじゃないかと思うんですけど」
「毛布ですか?」
「違っ、そういうんじゃないです」
「コートですか?」
「いやアプローチ変えましょう。いやそうじゃないです」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です、いや大丈夫ではないですけど。病院来てるんで」
「じゃあ注射しますね」
「いやっ、えっ、パフッとしてくれるんですか?」
「すみません、患者さんと取り引きしていいのかどうかがちょっと」
「え〜〜〜〜じゃあもう、いい、じゃあ取り引きじゃなくていいですよ。チクッとする、パフッとする、そういう、現象として」
「現象」
「そうですね、だからチクッと、今からチクッとしますよね?そしたらすかさずパフッとしていただければと思うんですけど」
「でも注射に集中しないと」
「あ〜〜〜じゃあ注射、注射やります」
「はい?」
「注射、チクッとは僕がやりますんで、パフッとに専念していただいて」
「ご自分で注射されるんですか?」
「はい、そう、だから看護婦さんはパフッとすることに全力を、あっ、もう今からパフッとしてもらってもいいですけど、あっそれがいいや、ちょっともうパフッとしてもらえますか」
「え、注射はされないんですか?」
「いや、チクッとしてパフッとするのがいいかなと思ったんですけど、それよりパフッとしててチクッとしたほうがもっとよくないですか?いいんです。そのほうがいい、んで、はい、じゃあパフッとしてください、もう」
「どうしたら……」
「ああっじれったいですね!じゃあもうじっとしててください、チクッともパフッとも僕がやりますから。いきますよ、せーの」
「いやっ、ちょっと待ってください」
「ハァ……なんですかここまできて」
「やっぱりチクッとしてからパフッとしたほうがいいと思うんですけど」
「えっ、そう、そうかあ?いや、パフッとしながらチクッとしたらチク……」
「順番、だから、せっかくパフッとしてるのにチクッとするより、チクッとしたところをすぐにパフッとしたほうが、チクッとするのが短いしパフッとする感じもあると思うんですけど」
「な、うん、そ……いやぶっちゃけ順番はもうどうでも、っていうかやっぱりパフッとの意味わかってるじゃないですか、フフ……じゃあお願いします」
「えっ、注射はご自分でなされるんですよね?」
「あっそうか、そうでしたね、じゃあはい、チクッとな」
「あ、じゃあそのままぐっと押し込んでいただければ……はいお疲れ様でーす」
「おーイタイ」
「じゃ、これガーゼ、傷口のところをおさえていただいて、一時間くらいですね」
「はーいどうも」
「はい、お大事にどうぞー」
「いやっ、パフッとしました今!?」
「しました」