呪いであれ祝いであれ憑き物となると人は途端に諸手を伏して地に額を擦りつけるものでありましたが、まあ昨今の景気ですとお店が魚を仕入れるのも一苦労のようでして、霊験あらたかな旅館ともなるとこの憑き物すら勘定に入れてしまうそうです。そうなると物価の高騰だの何だのと相談を持ちかける先としては国ではなく寺の方が正しいのではないかと思えてきましてねぇ・・・原因が景気にせよ霊気にせよ無駄に値ぇ張るようなことは勘弁願いたいですなぁ。
客「あ〜ええ湯やった〜」
女将「どうもありがとうございます。どうしましょ、もうご飯お持ちしましょか」
客「そんならお願いしますわ」
女将「では」
とたとたとた・・・
客「はいはいはいっと・・・それにしてもほんまにええ湯やったな、パンパンやった腿もバキバキの肩もこれ、ぐるぐる回るで。それに風呂から見る海原がまた風流で、まさにこれぞ秘湯って感じや。これやったら値ぇ張るんも納得やな・・・お、早いな。もう来よった」
女将「お待たせしました〜」
客「いやもう全然全然。ところで女将さん、ここの名物いうたら一体何になりますの」
女将「メバルになりますねぇ」
客「メバルですかぁ」
女将「メバルいうんは眼ぇ張った魚、『眼張』書くんですなぁ。そやけど最近は不景気かしらん魚も値ぇ張るようになって、そんなんならいっそ名前ネバルに変えてもろた方がウチは楽なんですけどねぇ」
客「ほほー(なんや値ぇ張ると思たらそういう事かいな、世知辛いのう)・・・いやいやいや、女将さんメバル談義に花添えてもらうんはありがたい話やけど出す料理出す料理全部豆ですやん。メバルのメの字もないやん。それにしても百粒はあるでこれ」
おばけ「んふふ」
客「うわ、なんやアンタ。体透けてるし陰気な顔してるし大丈夫かいな・・・あっ!足がない!さてはアンタおばけやな。女将さん女将さん、この旅館呪われてまっせ」
女将「あらあらあら」
おばけ「んふふ、お客さん。マメが百ならメの字は五十もあるで」
客「何をまたノンキな、女将さん電話どこでっか。寺に電話してちょっと坊さんに・・・ん?マメが百ならメの字は・・・ぷっ、ぷぷ」
女将「ふふ」
おばけ「な、何を笑てるんや・・・あっ」
客「ぷぷ」
女将「ふふ」
おばけ「アホがばれた〜」
客「あっはっは」
女将「あっはっは」
おばけ「あっはっは」
坊主「南無大師遍照金剛ていていてい」
おばけ「痛い痛い痛い、坊主ときたら学にストイックなんやから」
坊主「成仏せいていていてい」
おばけ「も〜わかったわかった成仏します」
客「あらまぁあっさりと」
おばけ「そらこの世に根ぇ張る足もない身ですので」