位置について――あろう事か、国語の試験中に太朗はいきなり大声で叫んだのだ。
クラスの誰もが目を疑った。でも、太朗の発した声には一点の迷いもなかったのだ。
A「ふっ、しょうがねぇ野郎だな!」
そう言うとAは机の上に登り、こんな狭い場所でクラウチングスタートのポーズをとったのだ!!
再びクラスの皆が目を疑ったが、太朗の目は自信に満ちていた。
B「お前がやるなら俺もやるしかねぇだろ!!」
そう言い、Bも机の上でクラウチングスタートのポーズをとると
クラス中が「じゃあ、私もやるわ!」「俺も!」「やるしかないのかよ」
なんとテスト中にもかかわらずクラスの仲間たちが一斉に机の上でクラウチングのポーズをし始めたのだ。
この狭い机の上でクラウチングを取れるわけもなくみんな異常にお尻が天井に突き出している。プルプル震えている奴もいる。
だが彼らに共通していることはみんな顔が生き生きしているのだ。
先生「テスト中にこんなことやっていいと思うのか?お前ら全員赤点だぞ?」
しかし、生徒にはもはやこの声は何も届いていなかった。
ここで再び太朗が口を開いた。
太朗「位置について、よーい・・・・・・・・・」
クラス中に緊迫した空気が流れる。
太朗「ドン!!!!!」
一斉にスタートを切るみんな、しかし机の上から発進が出来るわけもなく全員が机ごとひっくり返っていた。
「いったーい・・・」「骨が!!」「あー!痛い!!」
A「おい、ちょっとあれを見ろ!!」
Aが指をさした先を見ると先生が教卓の上でクラウチングを取っているではないか。
心なしか、みんなの目には先生の顔がやさしく見えていた。
ふと、太郎を見ると、もう・・・そこに彼の姿はなかった。
A「あいつは、一体・・・。」
先生「あいつは、俺たちが忘れかけていた何かを思い出させるために来た神様の使いじゃないのかな?」
夕日に浮かぶ太朗の笑顔。
僕たちは彼のことを一生忘れることはないだろう。