お手紙ありがとう。あなたの気持ちは大変よく伝わりました。
ですが何度も言っているように、私はあなたと結婚するつもりはありません。あなたは人間としてはとてもいい人ですから、私もお付き合いしている間はとても楽しかったです。しかし、結婚となるとやはり様子が違ってきます。
結婚するということは、どちらかの籍に片一方が入るということを意味します。すると、交際をしているときには思いもよらなかったようなトラブルが発生してくるものです。
そんな結婚生活におけるトラブルとして最もポピュラーなのが、経済面でのいざこざです。どちらかの収入が少ない、あるいは極端に多い、一定以上の稼ぎがあるにしてもそれを家系に納めない……色々あるでしょう。
私が思うに、私とあなたが結婚した場合、主にあなたの収入の面で、トラブルに発展します。なぜならあなたの収入が……あなたの本業である”風船の人”としての収入が、あまりにお粗末なものだからです。
子供達に夢を与えるあなたの職業、大変素晴らしいと思います。あなたが風船で形作る犬や猫、船、車、そのどれもが、子供達を笑顔にする力を持っていると思います。
ですけれど、本当に残念ながら、大人が二人生活するための最低限に、あなたの収入は遠く及びませんし、もし結婚するとして、将来的に子孫を残すという観点からいっても、ちょっと青ざめるほど足りません。引きます。
私ももう三十路を越しました。勿論幸せな将来を欲しますし、その幸せの中には、素敵な旦那様との結婚も含まれています。そしてあなたの性格やあなたの抱く夢などを、私はとても好みますし、それだけなら旦那様にしても……いえ、むしろ家内に迎え入れていただきたいとさえ思います。
ですが、理想ばかりでは現実が立ち行かないことは、お互い大人なのですから分かりますね?
本当に残念なのですけれど、あなたの収入が大きく改善されない限り、私があなたのプロポーズをお受けすることはありません。
そういうわけですから、もうお手紙を送ってくるのはよしてくださいね。これ以上エスカレートすると、こちらとしても法的な手段に頼らざるを得なくなって参ります。あなたもそんなことを望んでいるわけではないでしょう?
あなたが幸せな人生を送り、願わくば収入面も改善され……いえ、収入なんかを気になさらないような素敵な奥様とめぐり合うことを、心よりお祈りしております。
敬具