上京して初めて出来た彼氏との別れの日が来た。
それは唐突に。
「他に好きなひとができた」
そのたった一言で私の恋は終わりを告げた。
やけ食いするお金もなく、さびれたそば屋に私は入った。
頼んだのは一杯のかけそば。
トッピングすることもできない自分に情けなくて涙が出そうになりながら、
袋から割り箸を取り出し、
そばに手をかけようとした時、一つの大きな影が私を覆った。
「食べなさい」
影の方向から低く渋い声がした。
私はふと顔を上げるとそこにはふんどし姿の男が立っていた。
カウンターに仁王立ちした男は私に背中を向けこっちを見ようとはしない。
男のふんどしとお尻の間には立派なエビ天がはさまっていた。
「できたてだよ」
なかなかエビ天を取る気になれない私の後押しをするように男は言った。
そんな場所にあるエビ天を取る人なんかいるわけないのに、
男は取って当たり前だという感じで堂々としている。
そんな姿を見たからなのか、振られた悲しさからなのか、
意を決した私はエビ天に箸を伸ばそうとした時だった。
「さあ!さあ!」
さあ!の掛け声に合わせて男は2回尻を突き出した。
エビ天はお尻に押されるようにふんどしを支点として半分に割れると、
ゆっくりと私のかけそばに沈んでいった。
私は箸をそっと置き、そばのお金をカウンターに出して店を後にした。
スープに映った彼のお尻が波紋で悲しく揺れていた。