信号の四差路を過ぎると教習車は杉並木の通りへと入っていく。
教習生は口を開いた。
「ほら、あそこのショップ覚えてる?私が入り口でつまづいてたかしが抱き起こしてくれたよね。」
「ああ、ここのカフェだっけ、私が初めてデートに誘ったの。緊張して何も喋れなくてどうしようかと思った。」
並木道を過ぎて線路を越えると住宅街が広がった。
「一昨年だっけ、二人飲み過ぎちゃってたかし終電逃してさ・・・当時はまだこの辺オールできるようなところもなくて・・・仕方がないからうちのボロアパートに呼んでさ。」
「あの時お互い初めてで戸惑ってたしよくわかんなかったけど私本当に幸せだった。」
車は下り坂を通って海沿いの橋へと通りかかる。
「あの日もこんな夏の暑い日だったなぁ・・・」
海へと着いた車はブレーキを掛け、エンジンを止めた。
「去年の夏、あの海で遊んでる時にたかしは・・・ねえ、覚えてる?まだ私のこと思い出せない?」
教官は涙を流していた。
「覚えてる、覚えてるよ・・・ユキ・・・」
教習生はああと呻き、教官の胸に抱きついて泣きじゃくった。教官もまた、その肩の向こうで顔を崩して泣いていた。
「ユキ、5000円返せ。」