祟りとは何か。
ふとしたことから、地蔵が仁王になるまで面倒みないといけなくなった。
最初は、無口で無感情で石な彼らを鬱陶しく思い
投げやりな態度で、自分の行為と運命を嘆くばかりだった。
しかし、慣れというものは例外無く訪れる。
数量限定のトイレットペーパーとかサランラップとかハムとか
一緒に並んで買ってくれるしその様がなんとも可愛い。
もちろん石なのでそういう仕草や表情など微塵も無い。
それでも僕が彼らに惹かれていくのは時間の問題で
とても自然であり当然であるといっても過言ではなかった。
今では一つ屋根の下に暮らす仲間である。
存在する意味を実感していたし、充実した日々を楽しんだ。
そういうことを考えていた。
同僚に頼まれた残業で帰宅は深夜。眠気と戦いながら家に着いた。
「ただいまー」声が無いのは当然なのだが、どこかいつもの部屋とは違う。
直ぐに気付いた。彼らがいない。
家を飛び出した。ただただ走り回った。
一緒に眺めた河川敷。派手に喧嘩した裏山。大好きだった菩提樹。
僕からこぼれていたのは叫声だけではなかった。
当てもなく探したあと、一旦落ち着くために家に帰る。
興奮冷めやらぬまま冷蔵庫を開く。
ミネラルウォーターを取りだして乱暴にドアを閉めた。
その時。ドアに磁石で丁寧に四点止めされていた。
「お世話になりました。」
丸いが凛としてなお愛おしい文字。これは彼らそのものだ。
複雑に絡み合いとめどなく湧き立つ感情をどうにか圧し殺しながら
確かに在るその一つ一つを大事に大事に心へと刻み込んだ。
ロンドでも踊るようにはらりはらりと優しく舞うカーテン。
時折覗く窓からは眩くでも柔らかに射しこむ朝日。
決意新たに、生を全うすることを決めた男の顔があった。
同じように巡る四季の、ある新緑煌く頃のお話。