あぁこの箱の中身ね、
チョーク。うちの実家、チョーク工場だから。昔ながらの手練りのね、最近じゃ滅多に見ないけどね。
私は一人娘でね、しかも父は職人ガタキの頑固者でさ「うちのチョーク工場を継ぐ覚悟がある奴にしかうちのヒトミはやらん」
って言うのが口癖みたいなもんだったの。
そんな父が息を引き取ったのは今年の冬…。
もう何年間も前からほぼ寝たきりだったんだけどね、突然夜中になると工場に行くようになってさ。
そのときは「あぁ、元気だった頃の事思い出してるんだな」ってくらいにしか思ってなかった。
でも、息を引き取る前に本当の事言ってた。
「ヒトミ、教職試験受けたんだってな…。
わしのたんすの中を見てくれ、少ないけどチョークだ。
お前らには夜にふらふら工場に行って、ついにぼけ始めたかと思われてたかもしれない。
作ってたんだチョーク、お前に教壇で使ってもらうために…。
母さんもわしのチョークをずっと使って教壇に立ってたんだ。
これっぽっちしか作れなかったけど、どうしてもヒトミにも使って欲しくてな…。
それと、これ使い終わるまでに今お前が付き合ってるサトシ君と結ばれてくれな…。サトシ君、チョーク職人になりたいって言ってくれたぞ。
父さん、ずっと空から見守ってるからな…。」
息を引き取った父に「絶対に教職試験受かって、父さんのチョーク使うから…。そして、これからもサトシがうちで作ったチョークを使い続けるから!」
そう言いながら、父の最後の呼吸を聞き終わるずっと父の手を握ってた。
もう涙が止まらなかった。
どうしてくれる、ホワイトボード