雪乃を失ってから、半年の月日が流れた。
俺はあの日以来、一人の時間が出来ると雪乃の事を考えない様にと、競馬場に行っては無為に時を過ごしていた。
もちろん競馬など血統も何も分かってはおらず、そもそもギャンブル自体に興味は無かった。
ただ、何となくレースを眺めては外れた馬券を破り捨てる行為で、俺の辛い過去が全て帳消しになる様な錯覚を覚えていたのかもしれない。
その日も何も考えず3連単の一番倍率の高い馬券を買い、何時もの行為を繰り返すだけのはずであった。
ただ一つ違った事は、その馬券が当たってしまった事と、その馬券の倍率が1,190倍であった事だ。
何時も1,000円分購入していたので、その額はなんと1,190,000円にもになった。
さすがの俺も、この時ばかりは手が震え、胸が高鳴った。
その時、ふと雪乃の言葉が頭の中に蘇った。
「貴方の何にでも平等な所が好き」
今の俺は雪乃を亡くした事で、自分自身の人生に今まで通りに向き合う事が出来ず、こんな所で燻っている。
俺は雪乃と一緒に雪乃の愛した俺までも亡くしてしまったというのか・・・
今、この当たり券を外れ馬券と同じ様に破り捨てる事で、雪乃が愛した自分を取り戻そう。
俺は手の内の馬券を破り捨てると、清々しい想いで競馬場を後にした。