近視性乱視さんのピックアップされているネタ

[第 1925 回]

「ん、ありゃぁ何だ?」
「まあ、銅像だろうな。こんなところに一人でぽつねんと暮らしているとはよほどの物好き職人が作った物好き銅像に違いねえ。」
「子供は親に似るってか。どれどれ、おい、引き出しを開けたら袋が出てきたぜ。便箋が一枚入ってる。日本語で書いてあるな。クルーザーへ戻って読んでみようぜ。」

『ことの始まりは、一年で最も猛烈な暑さが影を潜め、夏もいよいよ終わりに近づいた頃のことだった。私の生活していた田舎のとある村では、何の予兆も表さないまま、突如として人が意識不明に陥る謎の病が流行していた。病は、性別年齢に関係なく、人であるということのみを条件として伝染し、村中へ広がっていった。人々は、この病をたいそう怖がった。土地神の祟りだと喧伝する者もおれば、家畜のつれてきたウイルスの仕業だと主張するものもあった。私も最初はただ好奇心から原因が何なのかは気になっていたが、最初に妻が倒れて、次に長女、次女と後を追うように臥せってしまってからというもの、いよいよ対岸の火事ではなくなった。

妻は、器量の大きな女であった。私が農作業から帰ってくると、必ず玄関で正座をして出迎えてくれた。「お疲れ様です」とかけてくれる労いの言葉が仕事の疲れを吹き飛ばしてくれた。彼女は常に家族を気遣っていた。結婚してからというものただの一度として、私や娘たちよりも、自分を優先することはなかった。毎日の私の弁当や食事、洗濯、掃除、帳簿、私が風邪で寝込んだ時などは農作業まで手伝わせたこともある。家のことは何から何まで彼女に頼り切りだったのである。そんな妻の後姿を見ながら育った娘たちは、病魔にさえ侵されていなければ今頃は都会に出ていって立派な家庭を築いていたのであろう。

私は、小さな家庭の幸せが、ある日突然、理由なき病魔の暴走によっていとも容易く過去のものとされてしまったことに、これまでにない憤りと不条理を感じた。この仕打ちは、因果応報を最も重要な規範とする私の人生哲学に反した。天罰はすべからく原因のあるところに下されるべきである。であれば、報いもまた原因のあるところに来たるべきものである。私は、妻と娘たちの魂が再び床の抜け殻の中に戻ってこれるように、ヒノキの木材から像を彫った。腕は未熟だが非常に丁寧な仕事だったと思う。私は、かつて最愛の家族と一緒に囲んだ机の上に台座をガッチリと打ち付け、その上に完成した像を祀りご本尊として毎日祈りを捧げた。

しかし、結局私の祈りは通じなかった。3か月後、家族は意識不明のまま呼吸をやめてしまった。藁にもすがる思いで、抜け殻の世話の傍ら祈りを続け、諦めてはいなかったのだが、最後は無念の結果となってしまった。受け入れる心の準備は長い時間をかけて出来上がっていたので、涙は一粒も浮かんではこなかった。しかし、絶望だけが残った。

長くなったが、最後に私は、この像を破壊して、幸せの机と椅子と私の身体と一緒に真冬の海へ捨ててしまおうと思う。取り残された者は、丸い世界の端っこで孤独に朽ち果てていく以外に道はないのだ。』            

「変な手紙だな。一体誰に・・・ん、何だ?」

・・・ブクブクッ・・・・・ザパッ・・・・・
32.57 pts [44.4]
110 /161位 (31.9%)
PICKUP: ギーチチ  柿野種 




[第 1923 回] 鬼軍曹がふいに見せた優しさを教えてください
マイルドセブン エクストラライト
17.19 pts [25.3]
135 /135位 (0.0%)
PICKUP: 十二たまこ 




[第 1918 回] 「ちょっとだけ怖い、呪いのカセットテープ」どんな音声が入っているんですか?
テープの伸びている面を上に向けて部屋の灯りにかざしてみると、擦れたような跡が端から端まで残されていることから、物自体はかなり年季の入ったものであるということがうかがえる。それでも録音に使われた時期までは外から察することができず、デッキに挿入し巻き戻してから再生ボタンを押してみる。冒頭部分は、アナログ独特の耳に心地よいぶつ切れた雑音がメインになっていて、それが断続的に『ブッ…ブブッ……』といった具合で流れてくる。そしてその中に微かに聞こえるのは、マウンテンブーツが何か土のようなものを踏み込んで蹴りあげ、また踏み込んでは蹴りあげを規則的なテンポで繰り返す『ザクッ、ザクッ、ザクッ』という渇いた音だけで、人間の話し声や風の吹く音などは一切聞こえてこない。やがてさっきの雑音も消えると、その裏に隠れていた足音のような渇いた音もストップし約2秒空いたあとに『ゴッ』と1つ鈍い音がしたかと思うとテープもそこで終わってしまった。翌朝、学校に行こうとアパートの部屋を出るとドアの前に、3年前から実家で行方不明になったきりだったペットの猫が頭をパックリと頭蓋ごと割られた状態で捨ててあった。なんだ呪いのテープの効果もこの程度のことかと落胆し、いつものように猫の頭から鮮やかなピンク色のピチピチした脳髄を引き抜き『チュルチュルッ』と口に啜り込んだ。新鮮な血の匂いとトロンとした食感に中腰のまま舌鼓を打っていると突然背後…ではなく、脳の中で『グニャッ』という音がして、その場で自分の意思とは無関係に前のめりに倒れこんでしまったので、何が何やらと頭を混乱させているうちに、今度は頭の外側で、昨日のテープと同じ『ザクッ、ザクッ、ザクッ』という音が聞こえたのだが、それは私の意識とともに次第に小さくなり遠のいていってしまった。
33.30 pts [45.5]
93 /139位 (33.3%)
PICKUP: ギーチチ 




[第 1916 回] 「この花屋さんは精神を病んでるな」と思った理由
恋愛経験はかなり豊富な方で、いわゆる「元彼」の数だけで言えば両手を使っても数えきれないらしい。初めての相手こそ高校時代のクラスの中でも目立たないような同級生だったが、中には、大型トラックの運送業を営む社長さんとの遠距離恋愛や、年の差20を超える某大学病院の副院長との不倫関係まであったというのだから驚きだ。年も職業もバラバラな「元彼」たちではあったが、彼らは破局後数日と経たないうちに、みな必ず共通して、この「花屋」へ様々な色形の花を買いに来ている。花が必要なわけでもないが、何故かみな誘われるように買いにくる。
36.01 pts [49.7]
71 /137位 (48.5%)
PICKUP: JIN Lite@雨音